Ⅰ.令和5年度事業活動方針

令和5年の世界経済は、コロナ禍やウクライナ侵攻等の影響から昨年来のインフレが続いた状況に加えて、米国での金融関係の混乱等もあり、今後の見通しについては不透明な状況になっている。

日本経済は、インバウンドの復活や高水準の賃上げ等、コロナからの回復傾向が見られ経済再開は進んでいる。一方で原材料高やエネルギー高、相次ぐ食料品の値上げ等による物価高の状況の中、賃上げが消費に向かう好循環となるかは不透明で、景気拡大を予測する声は多く聞かれているものの、先行きの見通しは楽観できない。

繊維業界では令和4年7月、技能実習制度の適正な運用や人権問題に対して真摯に取り組む必要性から、日本繊維産業連盟がILO駐日事務所の協力のもと「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を策定、公表した。原材料費、物流費、エネルギーコストの高騰等、コスト高となる厳しい状況が続くなか、サプライチェーン全体で取り組むべき課題であると考えている。

このようなことも踏まえ、令和5年度事業活動方針については、引き続き「ガイドライン」、並びに「自主行動計画」を基本に、会員企業各社がその社会的責任を果たし、サプライチェーンにおける健全な取引を行うことができる仕組みを模索し、国際的な潮流のサステナビリティを見据えた、「取引の適正化」事業に取り組んでいく。

Ⅱ.事業活動

1.「取引の適正化」事業

令和5年度も経済産業省ならびに各業界団体と連携を取りながら、「ガイドライン」「自主行動計画」の普及啓発活動を推し進め、「適正取引」や「付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させるための適正取引の推進と、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を実施する。

(1)聴き取り調査の実施

例年通り、「ガイドライン」の実践・進捗状況、「歩引き」取引の実情、「自主行動計画」の実施状況やCSRへの取り組み等に加え、価格転嫁の実態、手形取引の状況、手形の廃止に向けた考え方等についても引き続き調査を行う。また、平成26年から実施している産地を対象とした調査についても、引き続き実施する。

1)実施時期:令和5年5月~9月
2)内  容:・「ガイドライン」の実践・進捗状況
      ・「歩引き」取引の有無と実情
      ・手形取引・決済方法の実情
      ・「自主行動計画」の実施状況
      ・CSRへの取り組み状況
      ・価格転嫁の実態
      ・企業の社会的責任に対する意識
      ・産地における取引の実情
3)対象企業:聴き取り調査参加企業(以下参加企業という)及び関連団体傘下会員企業

(2) アンケート調査の実施

非参加企業に向けて「聴き取り調査」と同様な項目にて、「ガイドライン」の実践・進捗状況、「歩引き」取引の実情、「自主行動計画」の実施状況やCSRへの取り組み等に加え、価格転嫁の実態、手形取引の状況、手形の廃止に向けた考え方等についても引き続きに調査を行う。

(3)「歩引き」取引廃止の徹底と普及啓発活動の推進

繊維産業から「歩引き」取引をなくすために引き続き下記の具体策を推し進める。

1)会員企業は企業の社会的責任を果たす意味でも、各社の仕入先、販売先に「歩引き」取引の廃止を要請。
2)要請後も「歩引き」取引を継続している場合は、企業の社会的責任を鑑み、参加企業は自社の「歩引き」廃止の取り組みや今後の取引等についての説明と協議を進める。
3)事務局は関連する業界団体を通じ、非参加企業に対して、「ガイドライン」の普及活動とあわせて「歩引き」取引の廃止についての啓蒙活動を実施する。

(4)「ガイドライン」の普及活動の推進

 当協議会は平成16年の「ガイドライン第一版」作成以来、産地を含む全国各地において機会ある毎に説明会を開催してきた。 「基本契約書」の締結促進、計画情報の共有など、基本的かつ普遍的な取引上のルール等を各企業の経営層から第一線で活躍している方々まで理解して貰うことは、取引の健全化にとって極めて重要である。 会員企業はもとより、産地における企業や非会員企業に対して、「ガイドライン」の存在と浸透を如何に図るかは継続的課題であり、今後も引き続き、経済産業省並びに各業界団体との連携を図りながら普及啓発活動を推進していく。

(5)「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」の浸透ならびにフォローアップの実施

平成29年3月、当協議会では、日本繊維産業連盟と協同で適正取引の推進を一層進めるため、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を充実すべく「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」を策定、業界団体の協力を得て、浸透活動をすすめている。
令和5年度も引き続き、繊維業界全体に対して「自主行動計画」の浸透をはかるための活動を行うと共にフォローアップ調査に取り組んでいく。特に、説明会、アンケート結果なども踏まえて、浸透が浅い地域、団体に対しては重点的に実施する

2.「TAプロジェクト」事業

分科会活動については、引き続き各委員会等を通じ会員企業や関連する業界団体から広く情報を収集し、サプライチェーン上に生じている新たな課題に対し、必要に応じて適宜分科会を設置し課題解決に取り組んでいく。

3.新規事業

 令和4年7月、日本繊維産業連盟はILO駐日事務所の協力のもと、「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を策定、技能実習制度の適正な運用をはじめ人権問題や環境問題に対して真摯に取り組む必要性を表明した。また、令和4年12月には関係閣僚会議の決定を受け、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」がスタート。現状の制度を廃止し、新たな制度の創設を目指した議論が進み、本年4月には中間報告が示された。
このように、繊維産業のサプライチェーンにまつわる新たな動きと、それに伴う課題に対し、経済産業省からの働きかけもあり、令和5年4月に予定していた日本アパレル・ファッション産業協会への事務所移転は中止したうえで統合を棚上げし、SCM推進協議会の新たなミッションとして、これらの課題に取り組む可能性について検討を開始することとした。

(1)「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」の策定

<背景>

1)国際社会では、企業は人権の尊重、環境の保護等、持続可能な開発に自発的に取り組む形で事業を行うことが求められ、さらに、これをサプライチェーン全体で実現することも必要になってきている。これを「責任ある企業行動(RBC)」と呼んでいる。
2)日本では「RBC」に関する理解が進んでおらず、取り組んでいる企業は限られている。

<取り組み>

1)技能実習制度の適正な運用をはじめ人権問題や環境問題に対して真摯に取り組む必要性を認識。
2)令和4年7月、日本繊維産業連盟がILO駐日事務所の協力のもと策定。

<課題>

1)「ガイドライン」策定後の普及・啓発を含め運用と実効性の確保。
2)企業監査等、管理体制の構築。

(2)技能実習から特定技能へ

<背景>

  • 外国人の受け入れを巡り制度改定の議論を開始。
  • 繊維産業は特定技能制度の対象外。

<取り組み>

  • 制度改定のタイミングを逃さず、繊維産業の特定技能への参入実現を目指す。

<課題>

  • 特定技能の適正運用を行う管理体制(統括団体、登録支援機関、第三者監査機関等)の構築。

→新たな体制の構築が必要

Ⅲ.委員会活動

1.事業運営委員会

事業運営委員会では協議会の運営強化や事業内容の検討立案と広報調査活動を実施する。

(1)令和5年度事業計画の実施状況の確認及び次年度事業計画の立案
当該年度事業活動の実施状況を確認すると共に次年度事業計画についての案を事務局並びに理事会に提案する。

(2)広報活動の実施
「メルマガ」「FISPA便り」等による協議会の活動内容及び、業界関連記事等について会員への広報活動を実施する。

(3)各種セミナーの開催
「法律相談セミナー」「事例研究セミナー」「経営トップセミナー」等の開催

(4)産地研修会の実施
繊維製品の生産現場の実情を理解し、「モノ作りの大変さ」「加工のプロセス」「情報共有の重要性」等について学ぶことを目的とした研修会を実施する。

2.取引改革委員会

取引改革委員会では繊維ファッション産業界の各段階間の取引上に生じている課題について調査するとともに、具体的な解決策について検討を行う。また、「取引の適正化」を図るため、諸官庁及び関連する業界団体と連携強化に努め、「ガイドライン」の普及・啓発活動を推進し、取引の適正化を進める。

(1)「ガイドライン」普及啓発活動の実施協力

1)関連業界団体及び産地・産元企業への「ガイドライン」の説明会開催
2)団体傘下の企業への「ガイドライン」についての実施状況に関する聴き取り調査
3)実施状況を幅広く把握する為、聴き取り調査訪問先の拡大 (団体傘下企業への訪問件数:平成28年17社→令和4年30社)

(2)適正取引の推進
業界全体における取引上の不公平・不公正な取引慣行の改善及び課題解決に向けた取り組みの推進。

1)「歩引き」取引の全廃と手形取引の適正化に向けた活動 関係する業界団体、及び経済産業省との連携強化に努め、
「歩引き」取引の全廃に向けた具体策の立案と実施を進める。 また、手形取引の適正化についての検討を行う。
2)「基本契約書」の締結を推進する活動
3)「発注書」の発行及び入手を推進する活動
4)「取引相談室」の有効活用に向けての周知活動

Ⅳ.令和5年度組織編成