FISPA便り「美人になる服」

 ちょっと気になる言葉を目にした時、その言葉をあり合わせの紙に書いておく癖がぬけません。そんなメモの束をながめていたら、こんな言葉が書いてありました。「時代が世代をつくる。世代が欲望を生み出す。欲望が時代をつくる」というものです。多分、一般紙のコラムから書き写したものだと記憶しています。

 日本のアパレルファッション産業が得意とするアパレル製品の中間ゾーンの消費低迷が長引いています。百貨店の閉店が相次いでいます。低価格商品の消費は旺盛とは言えませんが堅調です。ネット販売はアパレル製品でも伸びています。こんな状況の現代社会は格差社会だと言われています。

 で、この言葉を現代に当てはめるとどうなるか、と愚考した次第です。くだんの説は「欲望が時代をつくる」とありますが、だとしたら現代生活者の欲望とは、いったい何なのでしょう。昭和30年代は大量生産・大量消費社会でした。三種の神器(電化製品)が売れ、人々は豊かさを満喫したことをご記憶の方も多いでしょうが、現代生活者にもはやそんな欲望はありません。

 最近の生活者の関心は、モノよりコトだと言われます。モノはすでに満たされている。だから幸せ感が感じられるコトにお金を使うのだ、と。コト消費が現代生活者の欲望、と言うと大げさかも知れませんが、確かに旅行やテーマパーク、スマホなどでのゲームは活況を呈していると言えそうです。

 筆者は社会学者でもなく、マーケティングの専門家でもありませんので、その辺の観察に自信はありません。ただ、モノはモノでも「物語のあるモノ」を求める生活者が増えているように思います。作られた背景や作った職人の精神が感じられるモノ。それらは人々の欲望を刺激するのではないでしょうか。

 ところで、旧東京スタイルの社長で同社を営業利益率15.5%以上の婦人服企業に育てた故・高野義雄さんとの会話で高野さんが話した名言を思い出しました。「売れる婦人服とはどんな服ですか?」との問いに高野さんはこう答えてくれました。「女性が美しくなる服だよ」。

「美」に対する欲望は、多分、永遠のものでしょう。ついでながら「欲望が格差社会を生み出す」のでしょうか。             

(聖生清重)