FISPA便り「カラスの早起き、スズメの寝坊」

 ちょっとした暇ができたときの時間つぶしに最適な本があります。「忙しくて暇なんてない」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、それはそれとして、わざわざ読んでも実に面白い。「カラスの早起き、スズメの寝坊」(新潮選書)です。コンサーベイショニスト(自然保護に、話のわかるプロとして携わる人、の意)である柴田敏隆さんの著作は副題の「文化鳥類学のおもしろさ」を越えて、人間とは何かまで教えられ、考えさせられる巧著です。

 例えば「離間と好触」。鳥の世界では、群れる習性のある小鳥同士の接触の仕方で「離間型」と「向触型」がある。ツバメやムクドリは、電線などにとまった時、身体は触れ合わず、測ったように等間隔に離れて並ぶ。それに対して、シュウシマツやメジロは、見事に身体を寄せ合わせるのだそうです。まさしく「メジロ押し」です。

 柴田さんは、この生態から通勤の満員電車で他人との接触をいとわない日本人と嫌がる欧米人を比較して見事な文化比較論を展開しています。

 もうひとつの例です。他人の幼児を好んで奪い、食べたと言う、あの鬼子母神。「鬼子母神のシステム」の項では、こんなことを紹介しています。「旧農水省の調査によると、育雛中のヒナが、親鳥から貰う虫の数は、1日平均ヒナ1羽当たり50匹内外。一番(ひとつがい)のシジュウカラが年に2繁殖して12羽のヒナを育てたとすると、この一家は1年間に290万匹の虫を食べる計算になる」。

 自然界の食物連鎖は、よく知られていますが、こうして「数字」をあげられると妙な気分になります。何と言っても「1年間に290万匹」なのですから、鬼子母神も真っ青でしょう。

 鳥類といえば、クジャクは、美しい羽根をゆすって自らをアピールします。人間なら「ナルシストの権化」のようですが、自然界をみると、オスは総じてメスよりも見栄えが美しいようです。「メスを獲得する」ために、より美しくなるように進化をとげたそうですが、そう言えば、ファッションも「より美しく見せたい」という欲望に応えるための一手段と言えるでしょう。

  柴田さん流に言えば「人間は、オスもメスも同じように美しく見せて異性を獲得したいと願っている。しかし、市場規模はオス用よりメス用が圧倒的に大きい。何故だろう」ということになるのでしょうか。      

(聖生清重)