FISPA便り「“アゾ”で重要性増す生産履歴」

着衣の染料が溶けて体内に入り、人体に障害が発生したケースは確認されていませんが、人体への影響を未然に防止するために自主基準を設定し業界あげて順守することになりました。人体に影響を及ぼす特定芳香族アミンを生成する可能性のあるアゾ染料についての日本繊維産業連盟(繊産連)の「繊維製品に関る有害物質の不使用に関する自主基準」は、消費者の安心・安全の要請に応えるものです。 

 繊維製品の染色段階で使用される染料・顔料は約6,000種類以上あります。そのうちアゾ系の染料・顔料は約4,000種類で、特定芳香族アミンを生成する可能性のあるアゾ色素は180種類。色素全体の3%、アゾ色素の5%です。 

 繊維製品の人体への悪影響を防ぐための法的措置では、ホルマリン規制が知られていますが、この特定アゾ色素については「有害物質」であることが疫学的に認定されていないことから、これまでは法的には規制されていません。しかし、EUはすでにREACH法によって規制していますし、EU向け繊維製品輸出が多い中国や韓国、台湾でも法的に規制しています。 

 繊産連は、去る3月29日にホームページを通じて自主基準を一般公開しました。また、経済産業省は翌日、繊産連と繊産連に加盟していない70の繊維関係団体に繊産連の自主基準遵守を、厚生労働省も都道府県・政令市・特別区に対して同自主基準を周知徹底するよう通達しました。 

 問題は、自主基準の順守です。国内の染色業者は不使用を宣言していますので問題はありませんが、懸念されるのは供給の97%を占める海外生産品です。繊維製品の一大供給国の中国とは、自主基準を順守するため、すでに「ホワイトリスト管理システム」と呼ぶ仕組みを構築しています。しかし、中国には生地代理商が10万社、一定規模の染色メーカーが4,000社以上あります。どこかで「漏れ」がでないとは限りません。国内で検査するにしても検査機は9台しかなく、検査費は1回当たり2万~3万円かかります。

 作業が煩雑になる、とのぼやきが聞こえてきそうですが、この問題を契機にトレーサビリティー(生産履歴)がわかるSCM(サプライ・チェーン)の構築に努める必要があります。それこそが「安心・安全」を確保する確かな方策だからです。

(聖生清重)