FISPA便り「忠臣蔵とグローバル経済」

 芝居の忠臣蔵は、師走に演じられることが多い舞台ですから、新春には季節はずれの話題ですが、そこはちょっとお許しいただいて「忠臣蔵」と「グローバリゼーション」を考えてみました。 

 忠臣蔵は、改めて説明する必要がないでしょう。日本人に人気の芝居で「忠臣蔵を演じれば、大根役者でも観客が呼べる」と言われます。この忠臣蔵の人気にあやかって、故・池田勇人首相の頃の財界の大立者で日清紡の社長を務めた故・桜田武さんが、こんなことを言っていたそうです。「(日清紡の祖業である)紡績業は、忠臣蔵のようなものだ」。桜田学校の直系門下生を自認していた、ある社長経験者からお聞きしたものです。 

 「紡績業は、忠臣蔵のように大根役者(一流とはいえない経営者)が演じてもいつの時代でも人気が衰えることはない」との趣旨ですが、当時の日本の紡績業は、まさしく大衆に支持され、落日を知らない主要産業でした。ところが、韓国・台湾から東南アジア諸国、さらには中国などが経済発展の第一段階に繊維産業を位置づけ強化するにつれて、日本の紡績業は次第に国際競争力を失くしてきました。コストに占める労務費の比率が高い労働集約型産業の紡績業は、どうしても低賃金国との競争に勝てません。一時は、ポリエステル・綿混のシャツ地で言えば、市場シェア6割で抜群のコスト競争力を誇った日清紡も例外ではありえませんでした。 

 紡績業は、確かに地球規模で見れば、「忠臣蔵」のように人気の産業といえるでしょう。しかし、役者は日本人から中国人やインドネシア人に代わってしまったのです。 

 日清紡をはじめ、日本の紡績業は国内の生産設備は大幅に縮小しましたが、東南アジアや中国に生産拠点を設け、グローバルな生産・販売体制を構築しています。桜田さんの「忠臣蔵」説は、地球規模では正しかったことになりますが、「役者」の交代までは予想できなかったのでしょうか。そして、今ではテレビや自動車産業が紡績業の後を追っているように見えます。   

(聖生清重)