FISPA便り「腑に落ちない話」

 繊維ファッション業界歴半世紀で、いまなお現役のNさんの話はどうにも「腑に落ちない」ので、以来「どうしたことか」と情報を集め続けています。Nさんの話はこうです。「最近、大手アパレル企業から『テキスタイル企画・デザインができる人材を紹介してほしい』との要望が相次いで寄せられた。で、自分の人脈をフルに発揮して探した結果、意外なことにアパレル企業が求めているテキスタイル人材が実に少ないことに気付き愕然とした」。 

 この話を耳にした後、アパレル企業の幹部や商社・コンバーター、素材メーカー幹部諸氏に「日本でテキスタイル人材が不足しているのか、否か」と聞いてみました。筆者が聞いた範囲では、アパレル企業は、「不足している」と感じている人が多いのに対し、テキスタイルをつくる素材メーカーは「不足していない」と思っている人が多い結果になっています。 
 アパレル企業は、バブル崩壊以降のデフレ経済下での競争激化で、限られた経営資源を店頭販売力に重点的に振り向けるようになるにつれ、実際のものづくりは商社のOEM・ODMに依存する構造が生まれ、すでに定着しています。しかし、最近は、競争優位を実現するための商品政策で「オリジナル性」を志向するようになりました。商品にオリジナル性を付与して差別化するためには、テキスタイルそのものからオリジナル性を追求する必要があるからです。 

 Nさんへの大手アパレル企業からの要望の背景にはこうした事情がありそうです。この傾向は、折に触れ「同質化」が指摘される日本のファッション市場にとっては好ましい傾向だと言えるでしょう。ただ、「腑に落ちない」話の「テキスタイル人材の過不足」は、どうしたことでしょう。アパレル企業が求める人材レベルが高すぎるのか、それともアパレル製品の海外生産が90%以上を占める中で、国内でテキスタイルに携わる人材が限られてきているのでしょうか。  

 ちなみに、Nさんが大手アパレル企業に紹介した優秀なテキスタイル人材は3人でしたが、全員が60歳以上とのことでした。

 

(聖生清重)