FISPA便り「匠の技を形式知化」

FISPA(繊維ファッションSCM推進協議会)では、平成23年度の中核的な事業のひとつとして「海外展開を見据えた繊維産業高度化に向けたIT活用」を検討しています。去る6月21日には、「TA(テキスタイル・アパレル)情報化分科会」の38社・40人の委員が集まり、疋田時久野村総合研究所上級コンサルタントを講師にグローバル市場での事業拡大に向けた国際対応の必要性や日本における国際標準活用に向けた支援体制の課題などを検討しました。 

分科会での疋田さんの話で興味深い問題提起がありました。それは「個人の中にあるオペレーションの暗黙知(オペレーショナルエクセレンス)を、いつでもどこでも移植(ポーティング)できるよう形式知化しておくべき」というものです。 

日本の繊維ファッション産業の現状は、人口減少で縮小傾向の国内市場と成長する新興国市場への展開難で閉塞感が漂っていることは否定できません。しかし、一方では、産地の中小メーカーを含めて「匠の技」から生まれる繊細かつ高品質な日本テキスタイルの国際競争力には定評があります。世界のラグジュアリーブランドや中国、韓国のアパレルブランドが、ブランドを差別化するために日本テキスタイルを使用するケースが増えつつあることがその証明です。 

疋田さんは「M&Aや海外進出の速度を上げるために『匠の技』の形式知化・組織知化が欠かせない」と言っています。個人に属しているオペレーショナルエクセレンスを企業の共有財産にできれば、その企業の競争力が高まることは間違いありません。産業ぐるみで共有できれば、産業の高度化にも国際競争力の強化にもつながります。匠の技を持った全国の職人さん達も、心血を注いで体得した自分の技が後世に伝承できれば本望でしょう。

FISPAでは、今後この課題を検討する考えですが、この問題意識は“オール繊維ファッション産業”のものにしたいものです。匠の技を持つ個人に依存するビジネスに限界があることは誰もが感じているのではないでしょうか。であればこそ、匠の技という「ジャパン・オリジナル」に永続性を付与し、かつ国際標準の要素に加えることで世界市場での日本ファッションの存在感を高める努力を官民挙げて行う必要があると思います。 

(聖生清重)