FISPA便り「団体の総会シーズンに思う」

  例年、6月は各種事業者団体や公益法人の総会が多く開かれます。繊維ファッション産業SCM推進協議会の総会は12日です。前年度の事業報告や決算報告、新年度の事業計画や予算計画のほか、理事や監事などの人事も決定します。

 団体と言えば、その存在理由はどこにあるのでしょう。同業者が情報交換したり、親睦を深める。当該産業の存在を広く、かつ、正確に世間に知ってもらう。1社では対応が難しい税制や通商など国ベースの問題では、行政に対して意見を述べ、自らの産業の発展につなげるなど、いずれも大事な役割でしょう。

 しかし、昨今は、団体の運営で理事長、会長といったトップのなり手が少なくなった、とのつぶやきを耳にすることが増えたように感じます。原糸から最終製品、原料メーカーから小売り、その間で役割を果たす商社、問屋など繊維ファッション産業の各段階の団体は、会員の減少をはじめ総じて厳しい環境に置かれています。
少子高齢化による国内市場の縮小、激化する一方のグローバル競争、デジタル革命の荒波など、業界を取り巻く環境の厳しさで「自社の経営で手いっぱいで業界全体のことまで手が回らない」のが実情なのでしょうか。

 団体の在り方について、いつも思い出すことがあります。以前もこのコラムで触れたことがありますが、東レの社長、会長を務め、日本繊維産業連盟会長だった故・前田勝之助さんは、折に触れこんな持論を話していました。「森がなければ木は育たない」。「森」は産業であり、「木」は個別の企業です。木は1本ではなく、多くの木が集まってこそ育つというのです。木が集まって森になる。そうなると木も大きくなる。
 「そうは言っても、まずは『木』だよ」との声もあるでしょう。「例えはわかるが、現実は…」といった声もあるでしょう。しかし、例えば、米国との通商交渉で突然、自社の経営が大きく左右される事態が勃発しないとも限りません。そうした際、自社が属す業界が不利益をこうむらないように力を合わせて対応する必要があります。

 団体の事業では日本ファッションウィーク推進機構(JFW)が主催する、テキスタイル合同展示商談会の「プレミアム・テキスタイル・ジャパン」(PTJ)展があります。出展者、バイヤーの双方から好評で、運営面でも自立しています。団体が主催する事業の成功事例の代表ですが、実は、この精神も「森として成長しよう」なのではないかと思います。             

(聖生清重)