FISPA便り「国際チームとファッションの力」

 過日、老人福祉施設に勤務している知人に誘われて、都内の下町にある施設を見学してきました。折から、日本社会は人手不足で、アパレル生産現場もそうですが、農業や介護などの分野で、海外からの人材に頼るケースが増えています。「そこで働いている人は、まさに国際色豊かなのですよ。一度、現場を見てみたら」との誘いの言葉に乗ったのです。

 施設に到着後、まずは、知人の配慮で、10歳代と思われる若い女性の介護スタッフ数人とあいさつを兼ねてちょっと会話しました。「私は、○○と言います。日本語と介護を勉強しています。頑張ります」。たどたどしい日本語でしたが、皆、はきはきと自己紹介してくれました。異国で言葉と介護を学ぶ、その真摯な態度と若さに、古希を過ぎた筆者は、年甲斐もなく緊張させられました。

 聞くと、その施設では、日本人、韓国人、中国人、ミャンマー人が働いているとのことでした。挨拶してくれた若い女性はミャンマー人で、EPA(経済連携協定)を活用して、働きながら日本語と介護を学んでいるのだそうです。短時間の会話でしたが、女性たちの学びの意欲を強く感じました。 

 スタッフが、国際チーム、いや、アジアチームとも言える編成になっている事実をみて、今後一段と進む日本社会での高齢化と人手不足を前に、アジアチームが良き先行例になることを期待したいと思いました。 
施設の運営で、もうひとつ感心させられたことがあります。その施設では、頻度は失念しましたが、入居者のファッションショーを行っているとのことでした。主に女性の入居者がモデルになったファッションショーは、大いに盛り上がるそうです。

 髪を整え、お化粧を施し、精いっぱいのおしゃれをして、車いすで即席のランウエーを練り歩く。参加した女性たちは涙を流して喜ぶそうです。

 TVのニュースで、時々、老人福祉施設でお化粧をして満面の笑みを浮かべる高齢の女性のことが報道されますが、実際、その通りなのでしょう。アジアチームの現場を見学に行ったのですが、そこでは思いがけずファッションの力のすばらしさを教えられました。

 福祉施設のスタッフが働きやすいユニフォームの開発もおそらく行われているでしょう。繊維ファッション産業は、福祉施設の入居者とスタッフ双方にとって、なくてはならない産業なのだと改めて思いながら施設を後にしました。

                            (聖生清重)