FISPA便り「風車、風が吹くまで昼寝かな」

 経団連が新卒採用の現行ルールの廃止を決めたことで、政府主導で新たなルールが策定されることになりました。このニュースと、その一方で、進展中の「働き方改革」、あるいは「人生100年時代」など、最近の働き方に関係する動きに思いを馳せた時、一人ひとりが自分の人生をどう生きるか、それぞれの状況の中で改めて、考える機会が増えているのではないか、と思いました。 

古希を過ぎた筆者の友人、知人を見渡すと、少なくとも半数以上のが、何らかの形態で働いています。週2回、地元の老人ホームで事務作業を行っている元教員、観光ガイドのNPOを立ち上げ、その後、株式会社にして現役社長に就いて八面六臂の活躍をしている元信用金庫の職員、年に一、二度ですが、友人との飲み会は知らない世界が窺えていつも新鮮です。この二人の友人は、幸せな晩年を生きていると思いますが、若き日は、もちろん、何度も苦境に陥ったことがあると言います。

 そんなことを考えていた時、時々、脳裏をよぎる一句を思い出しました。「風車、風が吹くまで昼寝かな」。です。あの東京裁判でただ一人の文官で絞首刑になった元首相広田弘毅の生涯を描いた城山三郎の「落日燃ゆ」。その中で、外交官時代の昭和2年、オランダに左遷された広田は、「風車…」の句を詠み、まさしく「風が吹く日」に備えて勉強にいそしんでいたそうです。

 新卒採用が適用される学生も、現役のビジネスマン・ウーマンも、引退後の人生を生きる高齢者も、それぞれの境遇の中で不遇の時があるでしょう。一生涯、順風満帆の人生を送り続けることができる人は、皆無ではないでしょうか。だれもが、不遇の時代を何度も経験すると思います。

 そんな時、「風車、風が吹くまで昼寝かな」と、うそぶきながら、同時に、風が吹いた時に実力を発揮できるような備えを怠らないようにしたいものです。城山が描いた広田元首相は、何度も不遇な境遇に直面しましたが、くさることなく、風が吹くまでの間、学ぶことを怠らず、次に吹く風に備えました。

 そうなのでしょう。「風」は、吹くときもあれば「止む」こともあるのが自然なのです。そう思えば、不遇の時も乗り越えることができるのではないでしょうか。筆者は、と問われればう~ん」ですが…。

       
 (聖生清重)