Ⅰ.令和6年度事業活動方針

 国際通貨基金は本年4月、四半期に1度の経済見通しを公表し、2024年の世界経済は好調な米国のけん引で3.2%成長と上方修正したものの、中長期では過去数十年で最低水準まで鈍化するとの見通しを示し、技術の進歩や労働者の能力の高まりを示す全要素生産性の低迷や世界金融危機後の企業の投資の伸び悩み、労働人口が増えにくくなったことなどを要因として挙げている。また、経済的なリスクとして中東などの地政学的な問題や米中関係も含め世界経済の分断も低成長に繋がるリスクがあるとしている。

 日本経済は円安により好調な企業業績を背景に、大企業を中心に高水準な賃上げが相次いでいるものの、未だ物価高により実質賃金のマイナスは続いている。長く続いたデフレ経済からの脱却への期待感は高まっているが、鍵となるのはこの賃上げの流れを中小企業へ波及させることやその持続性にあると見られている。

 そのような中、繊維業界では念願であった特定技能への業種追加が決定した。ただし、これまで技能実習制度において違反事例が多いことなどを受け、「国際的な人権基準」の順守や勤怠管理の電子化等、追加用件を満たすことが求められている。一方、繊維業界ではこれまでも、当協議会の「取引ガイドライン」に始まり「自主行動計画」、また日本繊維産業連盟が策定した「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」等、長年に亘り業界横断的に「取引の適正化」に取り組んできた実態もある。「取引の適正化」についてはサプライチェーン全体で、これからも諦めることなく継続して取り組んでいく課題であると考えている。

 このようなことも踏まえ、令和6年度事業活動方針については、引き続き「ガイドライン」、並びに「自主行動計画」を基本に、会員企業各社がその社会的責任を果たし、サプライチェーンにおける健全な取引を行うことができる仕組みを模索し、国際的な潮流のサステナビリティを見据えた、「取引の適正化」事業に取り組んでいく。

Ⅱ.事業活動

1.「取引の適正化」事業

 令和6年度も経済産業省ならびに各業界団体と連携を取りながら、「ガイドライン」「自主行動計画」の普及啓発活動を推し進め、「適正取引」や「付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させるための適正取引の推進と、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を実施する。

(1)聴き取り調査の実施

 例年通り、「ガイドライン」の実践・進捗状況、「歩引き」取引の実情、「自主行動計画」の実施状況やCSRへの取り組み等に加え、価格転嫁の実態、手形取引の状況、企業の社会的責任に対する意識等についても引き続き調査を行う。また、平成26年から実施している産地を対象とした調査についても、引き続き実施する。

1)実施時期:令和6年6月~11月
2)内  容:① 契約書・発注書について                        
      ② 「歩引き」・「費用負担(利益提供)」について
      ③ 決済方法・決済手段について
      ④ 価格反映、合理的な価格決定の取組について
      ⑤ 「下請法」・「下請け振興法」・「自主行動計画」の理解度、実践状況
      ⑥ 「パートナーシップ構築宣言」・「知的財産」の理解度
      ⑦ CSR・サステナビリティの推進状況について
      ⑧ サプライチェーンに対する企業の社会的責任について
      ⑨ 「外国人労働者」について
3)対象企業:聴き取り調査参加企業(以下参加企業という)及び関連団体傘下会員企業

(2)「歩引き」取引廃止の徹底と普及啓発活動の推進

 繊維産業から「歩引き」取引をなくすために引き続き下記の具体策を推し進める。

1)会員企業は企業の社会的責任を果たす意味でも、各社の仕入先、販売先に「歩引き」取引の廃止を要請。
2)要請後も「歩引き」取引を継続している場合は、企業の社会的責任を鑑み、会員企業は自社の「歩引き」廃止の取り組みや今後の取引等についての説明と協議を進める。
3)事務局は関連する業界団体を通じ、非会員企業に対して、「ガイドライン」の普及活動とあわせて「歩引き」取引の廃止についての啓蒙活動を実施する。

(3)「ガイドライン」の普及活動の推進

 当協議会は平成16年の「ガイドライン第一版」策定以来、産地を含む全国各地において機会ある毎に説明会を開催してきた。
 「基本契約書」の締結促進、計画情報の共有など、基本的かつ普遍的な取引上のルール等を各企業の経営層から第一線で活躍している方々まで理解して貰うことは、取引の健全化にとって極めて重要である。
 会員企業はもとより、産地における企業や非会員企業に対して、「ガイドライン」の存在と浸透を如何に図るかは継続的課題であり、今後も引き続き、経済産業省並びに各業界団体との連携を図りながら普及啓発活動を推進していく。

(4)「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」の浸透ならびにフォローアップの実施

 平成29年3月、当協議会では、日本繊維産業連盟と協同で適正取引の推進を一層進めるため、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を充実すべく「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」を策定、業界団体の協力を得て、浸透活動をすすめている。
 令和6年度も引き続き、繊維業界全体に対して「自主行動計画」の浸透をはかるための活動を行うと共にフォローアップ調査に取り組んでいく。特に、説明会、アンケート結果なども踏まえて、浸透が浅い地域、団体に対しては重点的に実施する。

2.「TAプロジェクト」事業

 分科会活動については、引き続き各委員会等を通じ会員企業や関連する業界団体から広く情報を収集し、サプライチェーン上に生じている新たな課題に対し、必要に応じて適宜分科会を設置し課題解決に取り組んでいく。

Ⅲ.委員会活動

1.事業運営委員会

事業運営委員会では協議会の運営強化や事業内容の検討立案、及び広報調査活動を実施する。

(1)令和6年度事業計画の実施状況の確認及び次年度事業計画の立案

当該年度事業活動の実施状況を確認すると共に次年度事業計画についての案を事務局並びに理事会に提案する。

(2)広報活動の実施

「メルマガ」「FISPAニュース」等による協議会の活動内容及び、業界関連記事等について会員への広報活動を実施する。 

(3)各種セミナーの開催

「法律相談セミナー」「事例研究セミナー」「経営トップセミナー」等の開催

2.取引改革委員会

取引改革委員会では繊維ファッション産業界の各段階間の取引上に生じている課題について調査するとともに、具体的な解決策について検討を行う。また、「取引の適正化」を図るため、諸官庁及び関連する業界団体と連携強化に努め、「ガイドライン」の普及・啓発活動を推進し、取引の適正化を進める。

(1)「ガイドライン」、「自主行動計画」の普及啓発活動の実施協力

1)業界団体及び産地企業への「ガイドライン」、「自主行動計画」の説明会開催
2)団体傘下の企業への聴き取り調査
3)実施状況を幅広く把握する為、聴き取り調査訪問先の拡大
 (団体傘下企業への訪問件数:平成28年17社→令和5年33社)

(2)適正取引の推進

 業界全体における取引上の不公平・不公正な取引慣行の改善及び課題解決に向けた取り組みの推進。

1)「歩引き」取引の全廃と手形取引の適正化に向けた活動
関係する業界団体、及び経済産業省との連携強化に努め、「歩引き」取引の全廃に向けた具体策の立案と実施を進める。また、手形取引の適正化についての検討を行う。
2)「基本契約書」の締結を推進する活動
3)「発注書」の発行及び入手を推進する活動
4)「取引相談室」の有効活用に向けての周知活動

Ⅳ.令和6年度組織編成