Ⅰ.令和4年度事業活動方針
令和3年の世界経済は、新型コロナウイルスの影響が落ち着きを見せたことで回復基調となり、米国を筆頭に好調に推移してきた。しかし経済再開の需要増により原油価格が高騰、また穀物価格も上昇、さらに追い打ちをかけるようにロシアによるウクライナ侵攻が起こり、今後の見通しについては欧州を中心にあらゆる方面に影響を及ぼすことが懸念され、先行きの予測が難しい状況になってきている。
日本経済も同様にコロナ禍からの経済再開が進み、加えて資源高や急速に進んだ円安が追い風となり、企業収益は最高益を更新するなど、上場企業を中心に好調だが、一方ではガソリン価格の上昇や小麦等の原材料価格の高騰による相次ぐ食料品の値上げ等、個人消費への影響については懸念されている。加えてウクライナ問題が起こり、世界経済同様、先行きの予測は難しい状況となっている。そのような中、政府は「新たな資本主義の実現」を掲げ、新型コロナウイルス対策と共に科学技術立国やデジタル田園都市国家構想等の成長戦略や、働く人への分配機能の強化や中間層の拡大といった分配戦略などを打ち出している。
繊維業界では百貨店の業績が回復傾向を見せるなど、明るい兆しも見え始めているが、生産面ではアセアン地域でのコロナ感染拡大の影響や原材料費、物流費の高騰、またここのところの円安傾向等、コスト高となる要因が数多く表れ厳しい状況が続いている。また、国内のサプライチェーンではコロナの影響で外国人技能実習生が入国できないなど、慢性的な人手不足といった課題も浮き彫りになっている。
一方、このような状況の中でも、モノづくりにおいては環境への負荷が低い原材料調達や加工方法を積極的に取り入れ、SDGs(持続可能な開発目標)に基づく課題解決に向けた取り組みを強化するなど、世界の潮流となってきているサステイナビリティへの対応はより確かなものとなってきている。
令和4年度はこのようなことを踏まえ、引き続き「ガイドライン」、並びに「自主行動計画」を基本に、会員企業各社がその社会的責任を果たしサプライチェーンにおける安心・安全な取引を確認できる仕組みを模索し、国際的な潮流のサステイナビリティを見据えた、「取引の適正化」事業に取り組んでいく。
Ⅱ.事業活動
1.「取引の適正化」事業
令和4年度も経済産業省ならびに各業界団体と連携を取りながら、「ガイドライン」「自主行動計画」の普及啓発活動を推し進め、「適正取引」や「付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させるための適正取引の推進と、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を実施する。
(1)聴き取り調査の実施
例年通り、「ガイドライン」の実践・進捗状況、「(売買)基本契約書」の締結状況、「発注書」の発行状況、計画情報共有の実情、「歩引き」取引の実情、「自主行動計画」の実施状況等について調査を行う。今年度についても、政府が進めている「中小企業等の活力向上に関する現状・課題と今後の取組について」の中で挙げている「取引適正化に向けた支払い条件の改善」を踏まえ、手形取引の実情や手形の廃止に対する影響等について重点的に調査を行う。また、平成26年から実施している産地を対象とした調査についても、引き続き実施する。
1)実施時期:令和4年5月~9月
2)内 容: ・「ガイドライン」の実践・進捗状況
・「歩引き」取引の有無と実情
・手形取引・決済方法の実情
・「自主行動計画」の進捗状況
・CSRの取り組み状況
・新型コロナウイルスの感染症の影響
・産地における取引の実情
3)対象企業:聴き取り調査参加企業(以下参加企業という)及び
関連団体傘下会員企業
(2)アンケート調査の実施
昨年に引き続き、非参加企業に向けて「聴き取り調査」と同様な項目にて、「ガイドライン」の実践状況、「(売買)基本契約書」の締結状況、「発注書」の発行状況、「歩引き」取引の実情、「自主行動計画」の実施状況、新型コロナウイルスの感染症の影響等についての調査を行う。
(3)「歩引き」取引廃止の徹底と普及啓発活動の推進
繊維産業から「歩引き」取引をなくすために引き続き下記の具体策を推し進める。
1)会員企業は企業の社会的責任を果たす意味でも、各社の仕入先、販売先に「歩引き」取 引の廃止を要請。
2)要請後も「歩引き」取引を継続している場合は、企業の社会的責任を鑑み、会員企業は自社の「歩引き」廃止の取り組みや今後の取引等についての説明と協議を進める。
3)事務局は関連する業界団体を通じ、非会員企業に対して、「ガイドライン」の普及活動とあわせて「歩引き」取引の廃止についての啓蒙活動を実施する。
(4)「ガイドライン」の普及活動の推進
当協議会は平成16年の「ガイドライン第一版」策定以来、産地を含む全国各地において機会ある毎に説明会を開催してきた。
「基本契約書」の締結促進、計画情報の共有など、基本的かつ普遍的な取引上のルール等を各企業の経営層から第一線で活躍している方々まで理解して貰うことは、取引の健全化にとって極めて重要である。
会員企業はもとより、産地における企業や非会員企業に対して、「ガイドライン」の存在と浸透を如何に図るかは継続的課題であり、今後も引き続き、経済産業省並びに各業界団体との連携を図りながら普及啓発活動を推進していく。
(5)「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」の浸透ならびにフォローアップの実施
平成29年3月、当協議会では、日本繊維産業連盟と協同で適正取引の推進を一層進めるため、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を充実すべく「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」を策定、業界団体の協力を得て、浸透活動をすすめている。
令和4年度も「下請中小企業振興法」に基づく振興基準の改定案とあわせて「自主行動計画」の改定を行い、引き続き繊維業界全体に対して「自主行動計画」の浸透をはかるための活動を行うと共にフローアップ調査に取り組んでいく。特に、説明会、アンケート結果なども踏まえて、浸透が浅い地域、団体に対しては重点的に実施する。
2.「TAプロジェクト」事業
分科会活動については、引き続き各委員会等を通じ会員企業や関連する業界団体から広く情報を収集し、サプライチェーン上に生じている新たな課題に対し、必要に応じて適宜分科会を設置し課題解決に取り組んでいく。
Ⅲ.委員会活動
1.事業運営委員会
事業運営委員会では協議会の運営強化や事業内容の検討立案、及び広報調査活動を実施する。
(1)令和4年度事業計画の実施状況の確認及び次年度事業計画の立案
当該年度事業活動の実施状況を確認すると共に次年度事業計画についての案を事務局並びに理事会に提案する。
(2)広報活動の実施
「メルマガ」「FISPA便り」等による協議会の活動内容及び、業界関連記事等について会員への広報活動を実施する。
(3)各種セミナーの開催
「法律相談セミナー」「事例研究セミナー」「経営トップセミナー」等の開催
(4)産地研修会の実施
繊維製品の生産現場の実情を理解し、「モノ作りの大変さ」「加工のプロセス」「情報共有の重要性」等について学ぶことを目的とした研修会を実施する。
2.取引改革委員会
取引改革委員会では繊維ファッション産業界の各段階間の取引上に生じている課題について調査するとともに、具体的な解決策について検討を行う。また、「取引の適正化」を図るため、諸官庁及び関連する業界団体と連携強化に努め、「ガイドライン」の普及・啓発活動を推進し、取引の適正化を進める。
(1)「ガイドライン」普及啓発活動の実施協力
1)関連業界団体及び産地・産元企業への「ガイドライン」の説明会開催
2)団体傘下の企業への「ガイドライン」についての実施状況に関する聴き取り調査
3)実施状況を幅広く把握する為、聴き取り調査訪問先の拡大
(団体傘下企業への訪問件数:平成28年17社→令和3年28社)
(2)適正取引の推進
業界全体における取引上の不公平・不公正な取引慣行の改善及び課題解決に向けた取り組みの推進。
1)「歩引き」取引の全廃と手形取引の適正化に向けた活動
関係する業界団体、及び経済産業省との連携強化に努め、「歩引き」取引の全廃に向けた具体策の立案と実施を進める。また、手形取引の適正化についての検討を行う。
2)「基本契約書」の締結を推進する活動
3)「発注書」の発行及び入手を推進する活動
4)「取引相談室」の有効活用に向けての周知活動