Ⅰ.令和3年度事業中間報告

 令和3年度は経済産業省ならびに各業界団体と連携を取りながら、「取引ガイドライン第三版」(以下 「ガイドライン」とする)、「自主行動計画」の普及啓発活動を推し進め、「適正取引」や「付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させるための適正取引の推進と、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を目指した。しかしながら、昨年度より続いている新型コロナウイルスの感染拡大の影響で制約を受けるなかでの事業活動となった。

 今回で16回目となる「聴き取り調査」については、例年のように5月より開始したものの、東京での緊急事態宣言が3回目、4回目と発出されたため終了は11月となった。また、「自主行動計画」に関しては5回目のフォローアップ調査を行い、更なる周知・啓蒙活動に取り組んだ。

 一方、「ガイドライン」説明会は感染拡大の影響で開催することができなかった。

 現在、「TAプロジェクト」の活動を基軸に、新型コロナウイルスの感染状況を見ながら、繊維ファッション産業界の全体最適を目指したSCM構築を図るために注力しているところである。

Ⅱ.事業活動

1.「取引の適正化」事業

 「取引の適正化」事業では、新型コロナウイルス感染拡大のため十分な普及啓発活動ができないなか、適正取引に関する「聴き取り調査」は実施した。今回の調査では「ガイドライン」の実践・進捗状況、具体的には「(売買)基本契約書」の締結状況、「発注書」の発行状況、「歩引き」取引の実情、「手形取引」の状況等について定点観測として調査を行った。また「自主行動計画」の進捗やCSRの取り組み状況についての調査も行い、新型コロナウイルス拡大に伴う取引への影響についても可能な範囲で調査を行った。

 また、平成26年から実施している産地を対象とした「聴き取り調査」も本年で8回目となり、産地における「聴き取り調査」は28社で実施した。

 以下は調査結果概要である。

(1)「聴き取り調査」の実施

1)調査実施時期:令和3年5月~11月

2)調査内容:
①「ガイドライン」の実践・進捗状況
②「歩引き」取引の有無と実情
③手形取引・決済方法の実情
④「自主行動計画」の進捗について
⑤CSRの推進状況
⑥新型コロナウイルス感染拡大が取引にもたらした影響
⑦産地における取引の実情について(産地)

3)調査対象企業:

「経営トップ合同会議」参加企業(52社)及び関連団体傘下企業(28社)計80社         
(業種区分については主体事業形態で区分)

(2)調査結果要旨

 参加企業においては「基本契約書」は概ね締結している。一方、産地企業では締結率においてばらつきが大きく、大手取引先とのみ締結している企業や昔からの信頼関係があるとの理由から締結していない企業も多い。ただし、参加企業、産地企業に拘わらず新規取引先については「基本契約書」締結を必須条件としている企業も増加している。

 当協議会では「ガイドライン」の普及活動を通じて、「基本契約書」締結の重要性を最優先事項と位置づけている。「基本契約書」を締結することは、「情報共有を通じた協業活動により、相互の経済効率を高め、最終消費者を満足させるように最大限努力する」ことでWin-Winの関係を構築することである。また、販売先や仕入先と取引上のトラブルが発生した際には、締結することにより紛争の長期化が避けられることが多い。参加企業では契約書締結の重要性についての理解は進んでいるが、産地企業においては、未だ十分理解されているとは言えない状況である。

 「歩引き」取引については調査を進めて10年が経過した。「歩引き」取引は「代金の減額を誘発する要因になりかねない不透明で不適格な取引形態」であるとし、平成22年の「経営トップ合同会議」で「歩引き」取引の廃止を宣言し、更に平成29年3月の日本繊維産業連盟と連名で「『歩引き』取引廃止宣言及び要請のお願いについて」を経済産業省からも同趣旨の書面を添えて出状し、廃止に向けた活動を継続している。

 これらの活動の結果、「歩引き」取引が今日のビジネスには相応しくない取引形態であるとの認識は徐々に各企業に浸透しつつあり、廃止に向けて具体的な活動をおこしている企業は増加している。

 ただし、非参加企業の中には常習的に「歩引き」を実施している企業も多くあり、依然として根深い問題として残っている。今後も、非会員企業ならびに産地における「歩引き」廃止に向けた活動を粘り強く行っていく。

 決済方法については、販売先、仕入先を問わず、現金決済の比率(「期日指定現金」を除く。以下同様)は昨年までは高まっていたが、本年度はほとんど変わっていない。本年度は参加企業においては販売先、仕入先とも現金決済の割合が平均5割強となっており、「手形決済」の比率は年々減少している。一方、産地においても販売先、仕入先とも現金決済の比率は7割程度で、「期日指定現金」が増えている。「期日指定現金」については、担保がないことなど、与信管理上の課題があるなど問題点も指摘されている。手形のサイトについては、参加企業においては概ね60日~120日に収まり、平均90日程度であるが、一部長期サイトも残っている。電子決済(電子債権) の比率は引き続き増加している。

 令和3年3月に「下請代金の支払い手段に関する通達」が見直され、下請代金に係る手形等のサイトについては60日以内とすること、そして、おおむね3年以内を目途として可能な限り速やかに実施すること、となったため、現状より改善が必要となってきている。また、政府は約束手形の利用廃止を2026年までに行う方針を掲げており、現状10~15%ある手形の割合が今後どのように変化していくかを「歩引き」と合わせて注視しなければならない。                      

 新型コロナウイルス感染症の影響について(参加企業)は、販売、仕入活動や仕事の進め方に対する影響は依然として大きいが、多くの企業が昨年度からの対策を継続している。
主な内容は以下の通りである。

[対策]
・在宅勤務、フレックス、時差通勤、交代勤務の実施
・不要不急の出張禁止、テレワーク、Web会議の実施
・消毒・マスク着用、飛沫防止シールドの設置など感染予防対策の実施
等をすべての企業が程度の差はあるが実施していた。

[取引に関する影響]
・納期の延長や猶予などを販売先、仕入先に依頼した
・顧客側の在宅勤務や休業による営業活動制約により、商談進捗への影響があった
・販売先より納品の繰り延べ、当社マージンを下げて欲しい等の要請あり
・販売先から支払い期日の猶予の要望あり(昨年度より減少)
・販売先からの発注が小ロット・短サイクル化した  

[課題・意見]
・在宅勤務が業務職を中心に根付き、コロナ終息後も働き方の選択肢として残す。
・リモートワークの影響で、受発注のツールが従来型のFAXからWebやメール(PDF形式での発注書添付等)活用へと徐々に変化してきている。
・テレワークが増加し、会議、商談内容によってオンラインと対面での商談を使い分けることが習慣化し、移動時間の短縮など効率的な影響もあった。
・物作りにおいては3DCADや3Dデザインによるコスト削減・スピード化で効率性を高め、よりよい顧 客提案という目標ができたが、課題としてはEC対応含めたDX人材の必要性を感じる。

 また、産地ではほとんどの企業で売上が激減。百貨店や量販店の小売りの売上の減少に伴い多くの企業で受注が減り、一部戻りつつもあるが、依然として厳しい状況が続いている。昨年3月までは縫製業では医療ガウンやマスクの生産で売上をカバーした。また、時短操業や休日を増やして、雇用調整助成金等でしのいでいる。一方で、従来の販売先から直接消費者に販売するなど、サプライチェーンの流れに変化がでてきている。地域によっては地元製品をブランド化して次の一歩を踏み出しているところもあった。

 産地企業の意見・状況を抜粋して記載する。
・百貨店1/3、国内アパレル1/3、海外(アメリカ等)ブランド1/3、であったが、コロナ禍により国内アパレル向けが減少し、今年は百貨店と海外ブランドが主体
・今までの問屋を通しての販売という流通依存度が極端に減り、小売店との新規取引や消費者への直接販売が増えている。小さな企業が健全化するチャンスと考えている
・産地としては、プロジェクトを立ち上げ、生き残りをかけて新しいこと(地域ブランド開発)を仕掛けていきたい
・SDGsの一般消費者への浸透や、地産地消の動きが加速するなど、遠州織物を大々的にPRしてモノづくりをする小規模ブランドが急成長している
・今回のコロナ禍で様々なことが学べて、平常に戻った際にはそれを生かして新しい取組みをしたいので政府には補助金制度を継続して欲しい

(3)アンケート調査の実施

 非参加企業(24社)に向けて「聴き取り調査」と同じ項目にて、「ガイドライン」に基づく取引適正化の実践状況についての調査をWEB上のフォームで8月に行った。「(売買)基本契約書」の締結状況、「発注書」の発行状況、「歩引き」取引の実情、決済方法の状況、「自主行動計画」の実施状況についての調査を行った。回答数は8社。「基本契約書」の締結、「発注書」の発行はほとんど行われていた。「歩引き」は仕入先に対してはどこも行っていなかったが、販売先からは3社されていた。

(4)「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」の浸透ならびにフォローアップ調査の実施

 平成29年3月、当協議会では、日本繊維産業連盟と協同で適正取引の推進を一層進めるため、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を充実すべく「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」を策定、業界団体の協力を得て、浸透活動をすすめている。

 令和3年9月10日には第4版として、「支払条件の改善のための取組み」「知的財産の取扱いについて」等の改訂を日本繊維産業連盟と共に行った。
10月には第5回となるフォローアップ調査を行い11月末には報告書をまとめ、業界団体に対して浸透活動を行った。

2.「情報の共有化」事業

 「情報の共有化」事業は令和元年に会員企業に行ったアンケート調査をもとにIoTやビッグデータ、AI等を理解し知識を深めることを目的とした「情報化勉強会」を立ち上げたが、新型コロナウイルスの影響や講義の内容と出席者の現状(現場)での仕事との乖離が見られ、2回目以降の開催を見送った。

 「情報の共有化(標準化)」事業は 長年取引において企業間の情報共有(データ交換)を行うということで方法を協議してきたが、結果としてまだ成果がでてていない。「デジタル化」の対応としては個々の企業において様々な改革がされてはいるが、それが「情報の共有化(標準化)」とはなっていない為、引き続き「情報の共有化(標準化)」に関する可能性について検証を行っているところである。

3.「TAプロジェクト」事業

 分科会活動については、各委員会等を通じ会員企業や関連する業界団体から広く情報を収集し、サプライチェーン上に生じている新たな課題に関して分科会の設置を検討したが、本年度は設置しなかった。

 

Ⅲ.委員会活動

1.事業運営委員会活動

 事業運営委員会では協議会の運営強化や令和3年度事業計画の実施状況の確認及び令和4年度事業計画の立案のための課題確認や広報活動を実施した。

 新型コロナウイルス感染拡大が長期化したことによって、「売上低迷」「アセアンのロックダウンによる納期遅れ」など苦戦している状況が報告された。さらに追い打ちをかけるように原材料・エネルギーの高騰、物流コンテナ問題など、課題の状況報告があった。一方、ウィズコロナ、コロナ収束後を見据えての発言もあった。

 また、「下請代金の支払い手段について」に関する政府からの通達に関して対応に関して意見交換を行った。

(1)「事業運営委員会」開催

第1回:令和3年6月23日 第2回:令和3年12月7日

(2)広報活動の実施

「FISPAニュース」16回、「FISPA便り」35回の配信を実施。協議会の活動内容及び業界関連記事等について会員への広報活動を行った。

(3)各種セミナー、研修会の開催

  「第12回経営トップセミナー」の実施
   開催日時:令和3年9月14日(火)15:00~16:40
   開催場所:TFTビル東館9階 909研修室
   演  題:「『役に立つ』から『意味がある』へ 『昭和的優秀さ』からの脱却」
          独立研究者 著作家 パブリックスピーカー 山口 周 氏
   参加者数:31名

(4)EDI標準メッセージの管理につい

中小企業総合事業団・繊維ファッション情報センターが維持管理を行っていた「繊維産業EDI標準メッセージ」は、平成14年4月に当協議会に移管され、平成18年4月にRA(小売・アパレル)間の標準メッセージを改訂後、更新されていない。継続するためには現在のインターネット環境に準拠させる必要があり、すべてのプロトコルを見直すと多額の費用が発生する。また、現在この「標準メッセージ」を使用されているということはほとんど聞かないことから、HP、メルマガ、業界新聞等で使用している企業からの情報提供を募ったが、問合せはなかった。よって、今年度をもって、維持管理を終了することとする。

2.取引改革委員会活動

繊維ファッション産業界の各段階間の取引上に生じている課題について調査するとともに、具体的な解決策について検討を行った。諸官庁及び業界団体の情報交換と連携強化に努め取引の適正化を進めてきた。
本年度は政府より「下請代金の支払手段について」の通達が発出されたことに伴い「自主行動計画」の改訂を行い、それに伴う意見交換をおこなった。

(1)「取引改革委員会」開催:

第1回:令和3年7月9日 第2回:令和2年12月2日

(2)「ガイドライン」普及啓発活動及び適正取引推進活動の実施

1)取引適正化説明会実施
 本年度は新型コロナ拡大の影響のため説明会は未実施であった。
2)産地における聴き取り調査
 業界全体における取引上の不公平・不公正な取引慣行の改善及び課題解決に向けた取り組みの推進を行うべく、産地における聴き取り調査を実施した。
3)自主行動計画フォローアップアンケート
 昨年に引き続き、関連団体傘下会員に対し自主行動計画の進捗状況についてアンケート調査を実施した。

(3)業界団体間での情報交換

各団体が抱える課題・問題点等、現況について各団体間での意見・情報交換を行った。
新型コロナウイルス感染症拡大による影響について、委員からは、昨年と比べると回復基調にはあるがまだまだ業種によって差が大きくあることや技能実習生が入国できないため縫製業の厳しい状況が報告された。

Ⅳ.活動状況一覧

 5. 令和3年度組織編成