Ⅰ.令和4年度事業報告

令和4年度もウィズコロナの状況が続く中での事業活動となったが、経済産業省ならびに各業界団体と連携を取りながら、「取引ガイドライン第三版」(以下 「ガイドライン」とする)、と「自主行動計画」の普及啓発活動を推し進め、「適正取引」や「付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させるための適正取引の推進と、サプライチェーン全体の取引適正化に向け活動した。
今回で17回目となる「聴き取り調査」については、5月から10月にかけて産地を含め計82社に対して行った。また、「自主行動計画」に関しては6回目のフォローアップ調査を行い、更なる周知・啓蒙活動に取り組んだ。
一方、「ガイドライン」説明会はコロナの影響もあり開催することができなかった。
今後も繊維ファッション産業界の全体最適を目指したSCM構築を図るために注力していく。

Ⅱ.事業活動

1.「取引の適正化」事業

「取引の適正化」事業では、コロナの影響もあり十分な普及啓発活動ができないなか、適正取引に関する「聴き取り調査」は実施した。今回の調査では「ガイドライン」の実践・進捗状況、具体的には「(売買)基本契約書」の締結状況、「発注書」の発行状況、「歩引き」取引の実情、「手形取引」の状況等について定点観測として調査を行った。また「自主行動計画」の実施状況やCSRの取り組み状況、価格転嫁の実態やコロナの影響についても可能な範囲で調査を行った。
また、平成26年から実施している産地を対象とした「聴き取り調査」も本年で9回目となり、産地における「聴き取り調査」は30社で実施した。
以下は調査結果概要である。

(1)「聴き取り調査」の実施

1)調査実施時期:令和4年5月~10月

2)調査内容:
①「ガイドライン」の実践・進捗状況
②「歩引き」取引の有無と実情
③手形取引・決済方法の実情
④「自主行動計画」の進捗について
⑤CSRの推進状況
⑥価格転嫁の実態
⑦コロナの影響
⑧産地における取引の実情

3)調査対象企業:聴き取り調査参加企業(52社)及び関連団体傘下企業(30社)計82社
 (業種区分については主体事業形態で区分)

    

※ユニフォーム関連企業数13社は上記表の業種ごとに加えられている。

(2)調査結果要旨

参加企業においては「基本契約書」は概ね締結しているが、うち1割程度は「覚書」で対応している。一方、産地企業では「基本契約書」の締結率は低く、販売先とは4割、仕入先とは2割、覚書を含めても書面を取り交わしているのは販売先とは5割弱、仕入先とは3割程度に過ぎない。大手取引先とのみ締結している企業や昔からの信頼関係があるとの理由から締結していない企業も多い。ただし、参加企業、産地企業に拘わらず新規取引先については「基本契約書」締結を必須条件としている企業は多い。
長年にわたり、当協議会では「ガイドライン」の普及活動を通じて、「基本契約書」締結の重要性を最優先事項と位置づけている。「基本契約書」を締結することは、「情報共有を通じた協業活動により、相互の経済効率を高め、最終消費者を満足させるように最大限努力する」ことでWin-Winの関係を構築することである。また、販売先や仕入先と取引上のトラブルが発生した際には、締結することにより紛争の長期化が避けられることが多い。参加企業では契約書締結の重要性についての理解は概ね浸透している一方、産地企業においては、当方の啓蒙活動が不十分である事も否めないものの、未だ締結の重要性が理解されているとは言い難い状況である。

「歩引き」取引については調査を進めて既に11年が経過した。「歩引き」取引が「代金の減額を誘発する要因になりかねない不透明で不適格な取引形態」である点については、平成22年の「経営トップ合同会議」における「歩引き」取引の廃止宣言、更には平成29年3月の日本繊維産業連盟と連名での「『歩引き』取引廃止宣言及び要請のお願いについて」の出状など廃止に向けた活動を継続してきた。活動による効果も一定程度見られ、「歩引き」取引が今日のビジネスには相応しくない取引形態である、との認識は概ね各企業に浸透しており、参加企業で仕入先に対しては全ての企業が廃止をし、販売先からの「歩引き」についても残っている企業は数社にとどまる。
ただし、これも長年の課題となっているが、非参加企業(非会員企業)や特定の産地においては常習的に「歩引き」を実施している企業は依然として多く、大きな課題として残っている。今後も、非会員企業ならびに産地における「歩引き」廃止に向けた活動を粘り強く行っていく。

決済方法については、販売先、仕入先とも、現金決済の比率(「期日指定現金」を除く。以下同様)が本年度はやや上昇した。今回の調査においては、参加企業においては販売先で現金決済57%、手形決済15%、電子債権他が29%、仕入先には現金決済52%、手形決済12%、電子債権他が36%となっている。なお「手形決済」の比率は年々減少している。一方、産地においては販売先が現金決済7割、仕入先とは現金決済が8割にも及んでおり、手形決済は販売・仕入先とも1割程度と現金化の比重は高まっている。「期日指定現金」の割合については販売先・仕入先とも参加企業で14~15%、産地企業で4~5%であるが、「期日指定現金」については、担保がないことなど、与信管理上の課題が指摘されている。
一方、手形のサイトについては、「90日以内」の比率は参加企業においては販売先6割、仕入先には7割となっているが、「120日以上」の長期サイトはそれぞれ1割程度ある。 一方産地企業においては、「90日以内」の比率は販売先5割、仕入先には4割と参加企業より低い。なお120日以上の長期サイトについては絹織物産地で目立っていた。
令和3年3月に「下請代金の支払い手段に関する通達」が見直され、下請代金に係る手形等のサイトについては60日以内とすること、そして、おおむね3年以内を目途として可能な限り速やかに実施すること、となっている。また、政府は「約束手形の利用廃止を2026年までに行う」との方針を掲げており、現状1割強ある手形決済の比率について「歩引き」と合わせて注視していきたい。

【新型コロナウイルス感染症の影響について】
販売、仕入活動や仕事の進め方に対する影響は依然として大きく、多くの企業は昨年度からの対策を継続しているものの、各企業の所属業態や取り扱い品種、地域(産地)差、顧客の状況により、業績や対応方法にも差異が生じている。主な内容は以下の通りである。

[主な対策]

・在宅勤務、フレックス、時差通勤、交代勤務の実施
・不要不急の出張禁止(一部緩和)
・テレワーク、Web会議の継続実施(テレワークは取りやめた企業もあり)
・消毒・マスク着用、飛沫防止シールドの設置など感染予防対策の徹底

[主な意見]

・中国でのゼロコロナ政策により工場が閉鎖され、現法も出社できない環境となり、物流もほぼ停まった為に中国国内での内販商売や日本国内での納品に大きな影響が出た。(同意見多数)

・ベトナムやインドネシア、中国のロックダウンの影響により、商品の生産がストップしたり、物流が混乱した事によって、納期遅れやAIR便乱発での費用の増大など、多大な影響を被った。また、在宅勤務  が常態化し、オンラインでの会議が当たり前のものとなり、申請や承認についても紙の媒体からWeb化への切り替えが加速した。

・取引におけるコロナの影響は、オンラインの商談では物を見ることが出来ないため、特に販促面でもどかしさが募る。働く環境面では、約80%の社員が在宅勤務が可能になる環境を作り、場所・時間に捕らわれずに業務が遂行でき、大幅に生産性の向上が図れた。会社が取り組む働き方改革への意識も高まり、時間外労働の減少、有給休暇取得率の向上にも繋がっている。

・リモートワークを採用し、受発注業務は円滑に遂行できている。生産拠点では健康管理やソーシャルディスタンスを徹底するための新たな作業プロセスを導入した。業績面は徐々に回復傾向にあるが、コロ  ナ以前との比較では受注数、売り上げともに非常に厳しい状況が続いている。

・コロナ問題に関しては、いち早くテレワークに取り組み、自宅からのリモートワークを行っている。営業面では百貨店等の休業により在庫過多になり、一時的に発注数が減少したが、現状は2019年ペースに戻ってきている。コロナ禍でRFIDやWeb受注への取り組みが見直され、結果として取引先が増えたことが要因。また、納品書や請求書のPDF化(電子請求書)に関して取り組んでいるが、どうしても紙でないと処理できない先もありコロナ禍での業務に支障が出ている。業界としての取り組みに期待している。

・取引面では、納期の短縮依頼、支払いの猶予依頼、発注減などの影響がある。働く環境については、オフィスの3密対策を主眼に置き、①テレワークの導入②残業時間の減少③フレックスタイムの導入④保育所等の子供を預ける支援⑤リモート(Web会議)設備の設置、などを継続的に実施している。

・新型コロナウイルスの影響だけではないが、生機コスト、生産コスト(エネルギー・染薬糊料・運賃)の上昇で、大幅な値上げをせざるを得ない状況にも関わらず、各客先共に事情があり、思うような値上げはできていない。対面会議や工場内での集会は徐々に通常化している。コミュニケーションの簡略化によるコミュニケーションエラーは引き続き発生している

・コロナの影響についてはインバウンド需要が消滅し、昨年は大幅売上減だったが少しづつ国内需要が戻り始めた。職場環境の面では出張の機会が激減しZoomでの打ち合わせが増えている。また、雇用調整助成金を1年ほどいただき休日を増やしたため、今後は休日を増やしていく。(産地)

・新型コロナの影響で小売店での販売ができなかったり、人の動きが制限されて売上が落ちたが、休業は行っていない。仕事が減ったため、外注への仕事が減り廃業する外注もある。コロナ以前とは状況が変わってきている。産地としては、プロジェクトを立ち上げ、生き残りをかけて新しいこと(地域ブランド開発)を仕掛けていきたいと考えている。(産地)

・新型コロナの影響で、以前より厳しい商環境のところ、壊滅的な打撃を受けた。少し改善したところで、相次いだ緊急事態宣言で何度もたたき落とされた。新型コロナが終息しても、改善されるか微妙なところである。製造の縮小を余儀なくされ、労働力に余剰が生まれた。技術力を維持しなければならないので、雇用調整助成金を利用しながら雇用の確保に努めている。(産地)

 

【CSR・サステナビリティの推進状況について】

各企業とも現状の最重要課題として積極的に取り組んでいる。
以下に取り組み例を紹介する。

・SDGs委員会にて方向性の確認及び全社への浸透を図っている。取り組み内容が数値化可能な内容に関してはホームページで公開。また、ダイバーシティ(人材多様化推進)、AWP(女性社員活躍)、大阪市リーディングカンパニー等の活動を継続的に推進、健康経営優良法人は2年連続認定されている。その他BRINGシステムで産業廃棄物を資源として再利用している。

・環境方針を定め、7つの行動方針を遵守して企業活動を行っている。具体的な取組み内容としては、環境配慮商品の開発と販売ならびに「低炭素社会の実現へみんなの知恵をシェアし実践していこう」という環境省が提案する「Fun to Share」運動に当社グループは継続的に参加している。

・企業理念に掲げるビジョン「世界中を、それぞれの『らしさ』で彩る。」を実現するため、サステナビリティ方針と5つの重点課題を設定し、人材育成や事業において推進している。具体的には商品軸での展開ECOARCHや3Dモデリングを活用したサービス、オーガニックコットンプロジェクト、回収した繊維製品をリサイクルし植物を育てる培地にするプロジェクトなど展開している。

・中期経営計画の中に「サステナビリティ長期ビジョン」を策定し、全社を挙げてサステナビリティに取組み、社会的課題解決に向けて貢献し続ける決意を表明した。社内コンプライアンス体制については①コンプライアンスハンドブックの配布②下請法、独禁法等のセミナー開催、③コンプライアンス研修の開催等を実施している。コンプライアンスならびに知的財産に関する教育はグループとしての最重点事項と位置付けられている。

・①環境商品の選定と提案、②スマートラッピング(簡易包装)の推進、③地球温暖化対策(電力使用量の削減など)、④省資源の推進、⑤ISO14001に基づく行動、を継続しておこなっている。

 

【パートナーシップ構築宣言の現状について】

本年度はパートナーシップ構築宣言の宣言状況についても調査した
結果は参加企業で「既に宣言している」は4割であるが、「予定なし」が2割、「知らない」も1割程度あった。産地企業では「既に宣言している」は1社のみで、7割の企業は「知らない」との回答であった。

 

【知的財産への取り組みについて】

知的財産について適正な取引を実現するために、「契約書や発注書面に知的財産のやりとりが発生する場合の利益分配や責任分担を明記する」といった取組組み状況を調査した。
「実施中」は参加企業で8割、産地企業で2割程度であった。実施しない理由としては、会員企業では「管理の必要性を感じない」、産地企業では「取引において存在しない」との回答が多かった。

 

(3)「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」の浸透ならびにフォローアップ調査の実施

平成29年3月、当協議会では、日本繊維産業連盟と協同で適正取引の推進を一層進めるため、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を充実すべく「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」を策定、業界団体の協力を得て、浸透活動をすすめている。

令和4年8月26日には、日本繊維産業連盟と共に「振興基準」の改正を踏まえ、第5版として「約束手形の利用廃止に関する事項」、「パートナーシップ構築宣言に関する事項」、「価格交渉促進に関する事項」について改訂を行い、11月には第6回となるフォローアップ調査を行った。

 

2.「TAプロジェクト」事業

 会員、非会員企業や関連する業界団体から広く情報を収集し、サプライチェーン上に生じている新たな課題に関して分科会の設置を検討したが、本年度については分科会を設置しなかった。

Ⅲ.委員会活動

1.事業運営委員会活動

事業運営委員会では協議会の運営強化や令和3年度事業報告、及び令和4年度事業計画の確認や広報活動を実施した。
コロナ禍での影響やアセアンのロックダウンによる納期遅れなどの状況、原材料・エネルギーの高騰、物流コンテナ問題などコストアップの実情、それに関連した取引先からの値上げ要請に対する考え方、また、「下請代金の支払い手段について」に関する政府からの通達に関する対応等について意見交換を行った。

(1)「事業運営委員会」開催
第1回:令和4年6月7日

(2)広報活動の実施
「FISPAニュース」21回、「FISPA便り」25回の配信を実施。協議会の活動内容及び業界関連記事等について会員への広報活動を行った。

2.取引改革委員会活動

繊維ファッション産業界の各段階間の取引上に生じている課題について調査するとともに、具体的な解決策について検討を行った。諸官庁及び業界団体の情報交換と連携強化に努め取引の適正化を進めてきた。今回の委員会では、「自主行動計画」の改訂についての報告と原材料高、エネルギー価格の高騰等コストアップ要因に対する考え方等について意見交換をおこなった。

(1)「取引改革委員会」開催:
 第1回:令和4年7月5日

(2)「ガイドライン」普及啓発活動及び適正取引推進活動の実施

1)取引適正化説明会実施
 本年度は新型コロナ拡大の影響のため説明会は未実施であった。
2)産地における聴き取り調査
 業界全体における取引上の不公平・不公正な取引慣行の改善及び課題解決に向けた取り組みの推進を行うべく、産地における聴き取り調査を実施した。
3)自主行動計画フォローアップアンケート
 昨年に引き続き、関連団体傘下会員に対し自主行動計画の進捗状況についてアンケート調査を実施した。

(3)業界団体間での情報交換
 各団体が抱える課題・問題点等、現況について各団体間での意見・情報交換を行った。「パートナーシップ構築宣言」や「支払い条件の改善」について、現状での考え方について報告された。またコスト上昇の実態と価格転嫁の実情について厳しい状況が報告された。

Ⅳ.令和4年度組織編成

組織図