繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画
繊維業界は経済産業省が策定した「繊維産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン(以下、「ガイドライン」という。)」に基づき、取引の適正化に努めてきた。日本繊維産業連盟及び繊維産業流通構造改革推進協議会(以下、「両団体」という。)は、これまでの当該ガイドラインに基づく取引適正化の取組みを一層進めるべく、自主行動計画を策定する。
繊維業界は、紡績や製糸、製織・編立、染色・加工、縫製、アパレル及び小売といった長いサプライチェーンを有しており、サプライチェーン全体での取引の適正化が産業全体の競争力強化に寄与するものであり、サプライチェーンを構成する各事業者がその重要性を理解し、不断に努力を行うことが求められる。
また、OECDにおいても、「衣類・履物セクターにおける責任あるサプライチェーンのためのデューディリジェンス・ガイダンス」を策定・公表されたこと等、これら「責任あるサプライチェーン」に係る国際的潮流を踏まえ、取引を行う事業者は自社に至るまでのサプライチェーン全体における法令遵守、適正な取引条件や労働環境等の確保について、十分な確認と考慮をすべき社会的責任が求められる。
さらに、働き方改革関連法が施行されたことにより、特に人手不足が深刻化している中小・零細企業にとって、「魅力ある職場づくり」による「人材の確保」そして「業績の向上」「利益増」に繋がっていくための環境の整備が求められている。
このような考えの下、両団体は経済産業大臣の掲げる政策「未来志向型の取引慣行に向けて」や、その一環として改正された下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請代金法」という。)に関する運用基準、下請中小企業振興法(以下、「下請振興法」という。)に基づく振興基準及び下請代金の支払手段に関する通達等を踏まえ、適正取引の推進を一層進めるため、サプライチェーン全体の取引適正化に向けた活動を充実すべく「繊維産業の適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」を策定することとした。この自主行動計画は、取引を行う事業者双方の「適正取引」、「付加価値向上」につながる望ましい取引慣行を普及・定着させる観点から、合理的な価格決定、コスト負担の適正化、支払条件の改善、生産性の向上等に関する今後の取組みを表明するものである。
両団体は、サプライチェーン全体への適正取引の浸透に努めるとともに、この自主行動計画の遵守状況を定期的にフォローアップし、確実な実行を担保することで繊維業界の適正取引が浸透するよう取組みを進める。
制定 平成29年3月1日
改訂 平成30年7月24日
平成31年4月26日
令和3年9月10日
令和4年8月26日
令和5年7月10日
日本繊維産業連盟
繊維産業流通構造改革推進協議会
改訂の経緯
■平成30年7月24日改訂
繊維産業において、外国人技能実習について法令違反の事例が多数発生しており、業種別では最多となっている。これは、法令違反を犯した個々の事業者の法令遵守の問題のみならず、繊維業界全体の信頼に関わる、極めて由々しい事態である。この問題には、法令違反を犯す企業の法令遵守意識の欠落はもとより、技能実習生等の適正な賃金や労働環境等を確保するには低すぎる発注工賃となっていること、更には、発注者が製品の自社に至るまでのサプライチェーン全体における法令遵守、取引条件等の実態について把握できていないことが背景にある。また、適正でない状態で製造された製品を消費者に提供している場合には、発注者に直接の法令違反がないとしても、企業の社会的責任(サプライチェーンに対する責任)が果たされていない状況が生じている。
こうした事態の適正化に向けて、日本繊維産業連盟は、繊維産業技能実習事業協議会を経済産業省との共同事務局として運営し、同協議会は、技能実習の適正な実施などに向けて繊維業界として講ずべき取組等について協議を行い、平成30年6月に「繊維産業における外国人技能実習の適正な実施等のための取組」を決定した。この取組においては、自主行動計画における「適正取引」への取組みの更なる改善に資する内容を含んでおり、これを反映させるため改訂を行うものである。また、本改訂に当たっては、業種別の取引実態を踏まえて、取引適正化の観点から関係者で協議を行い、TAガイドラインの中に縫製業及び染色加工業に関する内容を盛り込むこととした。
■平成31年4月26日改訂
中小企業庁による「自主行動計画」の取組状況のフォローアップ調査や、政府として下請中小企業の取引実態を把握するための取引調査員(通称「下請Gメン」)による下請中小企業ヒアリングを通じて把握した取引上の課題等を基に、サプライチェーン全体での更なる「取引適正化」、下請等中小企業の取引条件改善に向けて、下請中小企業振興法第3条第1項に基づく「振興基準」の望ましくない取引慣行の是正や、「働き方改革」、「事業継承」や「天災等」への対応などを踏まえた所要の改正が行なわれたため、これらを反映させるために改訂を行なうものである。
■令和3年9月10日改訂
令和2年6月29日に「未来志向型の取引慣行に向けて」が改訂され、既存の重点3課題「価格決定方法の適正化」、「コスト負担の適正化」、「支払条件の改善」に加え、「知財・ノウハウの保護」と「働き方改革に伴うしわ寄せ防止」が追加され、この重点5課題への対応等を通じた取り組みが求められた。これらを踏まえ、令和3年3月31日に (1)知的財産の取扱い、(2)手形等の支払サイトの短縮化及び割引料負担の改善、(3)フリーランスとの取引、(4)親事業者に対する協議を下請事業者から申し出やすい環境の整備などについて振興基準が改正されたことに伴い、繊維業界の実情を鑑みつつこれらの課題を反映させるための改訂を行った。
■令和4年8月26日改訂
令和4年2月22日の「第三回中小企業等の活力向上に関するWG」における取引環境の改善に向けた自主行動計画の改定などの要請、また、7月29日付「振興基準」の改正を踏まえ、「約束手形の利用廃止に関する事項」、「パートナーシップ構築宣言に関する事項」、「価格交渉促進に関する事項」について、繊維業界の実情を鑑み改訂を行った。
■令和5年7月10日改訂
令和5年3月17日開催の中小企業政策審議会、取引問題小委員会において、中小企業庁より下請Gメンのヒアリング結果を踏まえ、取引対価、価格交渉、短納期発注、分割納入、支払条件、歩引き等、検査基準、知的財産の保護、の8項目について指摘されたことを受け、改定を行った。
■令和6年7月11日改訂
振興基準(令和6年3月25日付)の改定、手形等のサイトの短縮への対応(令和6年4月30日付通達)を踏まえ、①労務費の適切な転嫁に向けた交渉のあり方、②原材料費やエネルギーコストの適切なコスト増加分の全額転嫁を目指す取り組み、③支払いサイトの短縮に取り組むべき対応について実情に即した形で追記をした。