FISPA便り「ファッションデザインと旅・美術館」

 一流のファッションデザイナーは、年2回ファッションショーで自らの創造力をバイヤー、ジャーナリストなどに披露します。毎回、何らかの新しいアイディアや社会に対するメッセージを服に盛り込むのですから、その営みは並大抵のものではありません。

日本を代表するデザイナーの森英恵さんは、折に触れ、こう話していました。「ファッションデザイナーは、時代の半歩先の空気を読んで、それを形にする」と。その通りでしょうが、その行いは、言うは易く、行うは難し、だと思います。事実、一時は、脚光を浴びたものの、あっけなく華やかな舞台から消えてしまったデザイナー、大成に至らず栄光の時が短命に終わったデザイナーは枚挙にいとまがありません。

そんなデザイナーにとって、創作の主要なインスピレーションが「旅」と「美術館」にあるのではないか、と思うことがあります。かつて、繊維ファッション記者だった時、ファッションデザイナーやテキスタイルデザイナーへの取材で、何にインスピレーションを得たのかとの質問に対して、例えば、灼熱の赤い大地のアフリカや広漠とした砂漠のシルクロードなど「旅」での見聞や美術館で鑑賞した絵画などの「アート作品」に触発された、と答えたデザイナーが少なくなかったからです。

先日、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中(会期は7月31日まで)の「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」を見て、ファッションクリエーションと旅とアートの関係を考えました。18世紀にフランスで誕生した「トワル・ド・ジュイ」は、フランス王妃マリー・アントワネットが虜になったと伝えられる美しいテキスタイルです。

ドイツ出身のプリント技師、クリストフ・オーベルカンプがフランスのヴェルサイユ近郊の村、ジュイ=アン=ジョザスの工場で産み出した西洋更紗は、人物がエキゾチックな田園に遊ぶ風景や神話や文学、多種多様な草花が優雅で美しいコットンプリントです。鑑賞しながら心はエキゾチックな風景の土地を旅しているような気分になりました。

2015年は、オーベルカンプ没後200年でした。200年の時を経ても世界中の人々に愛され続けています。優れたデザインとはアート作品同様に長い時間を経ても変わらずに人々を魅了するものなのですね。   

(聖生清重)