FISPA便り「縫製工場後継者のビジョン」
最近、アパレル産業に関してマスコミで取り上げられるニュースは、低迷を伝えるものが多いように感じます。主として百貨店販路の中間ゾーンの低迷なのですが、その一方では、IT、IoTを活用してサプライチェーンの革新に挑む動きを報じる記事も目立つようになってきました。
そんな革新の一例に㈱フクルがあげられます。桐生の縫製工場の子息の木島広さんが立ち上げた会社で、カスタムオーダー事業を手掛けています。Webサイトを通じて、デザインや色、素材などを選ぶことは他のサイトと同様ですが、フクルはオーダーされた洋服に必要な生地、パターン、糸、ボタン、芯、副資材などが自社や外注先に発注され、仮縫いを経て、サンプルを顧客に送り、その上で、顧客からのフィードバックを受け、お直ししてから製品を届ける仕組みです。
今後は、商社や機屋、手芸店などに部材調達先の在庫状況をデータベース化することで、部材調達の最適化を目指す一方、裁断、縫製、プレスなど各工程を、誰が、いつ行っているかといったトレーサビリティーが開示できるようにして、顧客満足を飛躍的に高めたい考えです。
木島さんは、デザイナーブランドや大手SPA企業でものづくりを経験した後、桐生に戻り、2011年に抱っこひもの販売とアパレルパターンのネット販売を開始、その後、マスカスタマイゼーションの仕組みを導入しました。
木島さんは、フクルのHPで同社のビジョンをこう表明しています。
「『脱』大量生産 マスカスタマイゼーションの仕組みをアパレル産業に構築して、強くて新しい繊維産業にリメイクします」。
木島さんは、幼いころからお父さんの背中を見て育ったことでしょう。デザイナー企業や、SPA企業で働く中で繊維ファッション産業の課題を目の当たりにしたと思われます。そうした出自と経験が「フクル」の起業に生きていることは間違いありません。ビジネスに成功し「強くて新しい産業」になることを期待したいと思います。
(聖生清重)