FISPA便り「ベンツ東京ファッションウイーク」新生JFWへの複雑な思い
円い輪の中に“スリーポイント・スター”を配したエンブレム。「メルセデスベンツ」車のボンネントの前方に胸を張って風を切るように立つベンツの象徴。車好きの人にとどまらず、多くの日本人が「厳格」、「高度な技術力」、「機能美」を感じさせる、「ベンツ」を象徴するマークに、ドイツの技術に対する「安心・安全」をそこはかとなく感じるのではないでしょうか。
その「ベンツ」が「東京発 日本ファッションウイーク(JFW)」の冠スポンサーになることが決まりました。2005年秋から年2回、官民挙げて実施し今秋で13回を数えるJFW。日本の若手・有力デザイナーが最新作を発表する「東京コレクション」は次回から「メルセデス・ベンツ・ファッション・ウイーク東京」に名称を変更して行われることになりました。
何故、「東京コレクション」の冠が「ベンツ」なのでしょう。繊維ファッション業界の関係企業・団体と政府が官民一体で実施してきたJFWですが、経産省の財政支援が打ち切られた今年度は、新たなスポンサーの下での「自立」を求められていました。そうした中でJEWと提携した米国のイベント大手IMGの仲介で「ベンツ」の冠イベントとして、再スタートすることになったのです。
これについて、JFW理事長の三宅正彦TSIホールディングス会長は「いままで以上に日本のファッションの魅力をグローバルに発信したい」との公式コメントを発表しています。政府の財政支援が得られない中では、やむを得ない決断でしょう。しかし、この報道を聞いた多くの繊維・ファッション業界人は「何故、ベンツなの」との複雑な思いを抱いたようです。「ベンツ」でなく「トヨタ」なら良かったのに。「パナソニック」でも「キャノン」でも良かったのに、と。
現代は、グローバル時代です。「日の丸」を必要以上に意識する必要はないかも知れません。ですが、ファッションの要素には、その国や地域の歴史、文化、伝統が織り込まれています。ならば、日本を代表するグロ-バル企業に冠スポンサーになってもらいたかった、と思うのは筆者だけではないでしょう。冠がどうであっても、「東京コレクション」のブランド価値を高めることこそが日本ファッションにとって最重要であることは言うまでもありませんが…。
(聖生清重)