FISPA便り「花を愛する国民性」
スプリング・エフェメラルという言葉があります。春先に開花し夏まで葉をつけると、あとは落葉広葉樹林の林床などの地中で過ごす。寒かった冬が終わり、ようやくやってきた春。特に、早春に咲くカタクリや福寿草、あるいはニリンソウ、ショウジョウバカマなど可憐な花々。それらを総称する言葉で、直訳すると「はかないもの」の意味です。「春の妖精たち」とも言われます。
春の妖精の季節は過ぎ去りましたが、ゴールデンウィーク(GW)は、四季のなかでも美しさではトップ級の季節ではないでしょうか。好みは人によってさまざまですが、ちょっとした郊外に出れば、黄色い山吹、紫色の藤の花が目に飛び込み、その背景には青葉、若葉がやさしく光り輝いている。足元には、たんぽぽがいたるところで咲いている。
そんな5月の野山の風景は、妖精が美少女になったような、と表現できるのではないでしょうか。美少女に会いたい、と人々は花を目指して各地に繰り出します。実際、この時期のバス旅行のパンフレットを見ると、フラワーパークへの旅が目に入ります。筆者はかつて、「ピーターラビット」を生んだ、英国・湖水地方を訪ねたことがあります。美しい自然が売り物で自然保全運動のナショナル・トラスト発祥地でもあります。
その湖水地方の美しさに負けていないのが、日本の5月の野山ではないでしょうか。野山だけなく、ちょっとした街角も含めてもよさそうです。
GWを前に、そんなことを考えていたら、新聞で読んだ記事から写したメモが見つかりました。それによると、安政6年(1859)に来日し、3年滞在した英国の初代駐日大使のラザフォード・オールコックは、こんな観察を記録していたそうです。
「目に映る景色はみな、すばらしい美と変化にとんでいた。春たけなわともなれば、一面に花盛りとなる。その花は芽を出したばかりの葉をいちだんと引き立てる。概して、首都やその周辺に、これに匹敵するほどの美しさを誇りうる首都はない」。
さらに、万延元年(1860年)から翌年に二度、来日した園芸家のロバート・フォーチュンという方は「もしも、花を愛する国民性が人間の生活文化の高さを証明するものとすれば、日本の低い層の人びとはイギリスの同じ階層の人達に比べるとずっと優れて見える」と書き残しているそうです。
GWの一日。美少女に会える小さな旅にでかけたらどうでしょう。
(聖生清重)