FISPA便り「デジタル革命、待ったなし」

 世はまさにデジタル革命まっただ中で、IoT、AIなどのIT技術に関する記事が紙面に載らない日はありません。そのデジタル革命は、アパレル産業の生産、販売現場ではどのような状況になっているのでしょう。そんな思いで先日、東京で開かれた(一財)ファッション産業人材育成機構(IFI)の繊維ファッションビジネス研究会に出かけてきました。

 講師は(株)アベイル代表取締役の小谷理実さん。「アパレルの世界を劇的に変えるデジタル技術の利用~世界に大きく後れを取っている日本~」と題した小谷さんの講演を聞いて、世界のアパレル産業の生産、販売現場の現実と日本のそれとは大きな開きがあることを知りました。要は、日本はデジタル革命では、一人、取り残されている、と言うのです。

 一例をあげると、物づくりと販売に関する常識があります。物づくりでは、サンプルを作り確認を繰り返す。販売では、MD判断をリアルサンプルで行い、カタログ作成やEC用にモデル撮影を行う。小谷さんは、アパレルの生産、販売現場で「常識」として行われている、こうした作業こそデジタル化すべきだと断言しました。

 そのための技術としてあげたのが、同社が扱う3D技術の利用。ブラウズウエアーと呼ぶアパレル用3Dソリューションを活用すれば、生産リードタイムが短縮でき、MD判断もカタログ作成も、お店作りもできるそうです。サンプルがない状態でもEC販売ができるのです。

 裸のアバター(ボディ)が前向き、後ろ向き、座位、手の上下など自在に動き、布を当て、縫製を指示することで洋服を着る画像で説明してくれました。布を拡大すると、布の質感も相当程度は知ることができます。アバターは、太めにも痩身にもすることができます。確かに、リアルサンプルなしでも物づくりやMD判断が可能なことがわかりました。

 もうひとつは、同社が開発した「IO-TAG」。法令上取り付け必須の洗濯ラベルのQRコードを印字することで紙タグの取り付けを不用にするものです。
これによってコストダウンやトレーサビリティー(生産履歴)情報も発信することができると言います。

 こうしたデジタル技術は、すでに世界では常識になっているのに日本は後れをとっているそうです。サンプルづくりが「常識」になっていて、その常識を覆すことに抵抗がある、と言います。「サンプルづくりは、本当に必要なの?」。「大切なことはスピードと情報発信力」。小谷さんの警鐘です。

(聖生清重)