FISPA便り「繊維ビジョンに見る自立と新領域」

 経済産業省産業構造審議会の製造産業分科会繊維産業小委員会が策定を進めていた「2030年に向けた繊維産業の展望」(繊維ビジョン)が発表されました。繊維産業を取り巻く環境の変化に対して進むべき方向性をまとめたものですが、一読してビジョンに盛り込まれている繊維産地の活性化策と新しい領域でのビジネスへの挑戦に注目したいと思いました。

 繊維ビジョンは2007年の策定以来、15年ぶりです。この間、環境は激変しています。国内市場規模の縮小、担い手不足、消費形態の変化(ネット通販などの急成長と定着)などに加えて、サステナブルやデジタル革命への対応にも迫られています。繊維・アパレル産業は世界的には成長産業だと目されていますが、その分、グローバル競争も激しいままです。

 そうした変化を踏まえて策定された繊維ビジョンでは、繊維産地を活性化するための「ファッション・ビジネス・フォーラム」(仮称)と「繊維産地サミット」(仮称)が設置されることになりました。

 前者は、デザイナーやインフルエンサーと産地企業、DtoC(メーカー直販)スタートアップ企業とのマッチングを図るもので、年内の設置を予定しています。後者は、繊維産地同士が共通する課題に対する有効的な取り組みの共有を推進するもので産地を有する地方公共団体で構成し、7月以降の開催を予定しているとのことです。

 筆者はかねて、全国に散在する繊維産地については、産地を形成する中小繊維製造業者が自社で企画・販売することで、下請け・賃加工を脱し、あるいは比率を下げて経営の安定を図ることが重要だと思っています。事実、そうした自立で成果をあげている企業も少なくありません。クリエイターと産地企業がスタートアップ企業とつながり、デジタル技術を使った「新しい自立」を実現する。この挑戦は、繊維企業のみにとどまらず、地方創生の具体策そのものでもあると言えるのではないでしょうか。

 繊維・ファッション産業は、世界的には成長産業だと見られています。縮小する国内市場だけでなく、成長する世界市場、なかでも東南アジア市場への進出は避けては通れないでしょう。この際、産地に存在する「匠の技」や「伝統工芸」的な技術をコアにして開発した現代的な「新ラグジュアリー」と呼ぶことができるブランドを是非とも開発してもらいたいものです。

メタバースなど、新たなビジネスチャンスも出現しつつあります。繊維ビジョンでも描かれている新領域です。意欲のあるプレイヤー(繊維事業者)の挑戦に期待したいと思います。                 (聖生清重)