FISPA便り「お客様相談室への電話」

 以前、新聞で読んだ記事がずっと、気になっています。「刑務所になくて社会にあるもの」との見出しだったと記憶しています。答えは「孤立」です。刑務所には自由はありませんが、孤立はない。刑期を終えて社会に出ると、自由は取り戻せるが、一方ではとかく「孤立」しがちだとの内容の記事でした。

ちょっと考えさせられたので、強く記憶に残っているのですが、この孤立、聴覚障がい者の青年と話していた(主として筆談)時にも言われたことがありあます。「聴覚障がい者にとって、一番、怖いのは孤立なのです」。そう話してくれた青年の本音も忘れることはできません。

思えば「孤」の文字が付く言葉は、深い悲哀を感じさせるものが多いですね。広辞苑で「孤」を引くと「孤児」、「孤独」、「孤島」、「孤立」、「孤高」が出てきます。それ以外にも、最近は」「孤食」が増えていると思われます。「孤高」は、別にして「孤」が付く状況は願い下げにしたいと思います。

そんなことを考えていたら、ファッション系企業の「お客様相談室」で働いている、ある中年の女性から「孤」に関係するこんな話を聞いて、またまた、考えされられてしまいました。その女性はこう言ったのです。「お客様相談室には、“常連”のお客様から電話がかかってくるのです。常連さんは、高齢と思われる女性で、本来の相談ではない話をして、なかなか、電話を切ってくれないのです」。

 そうです。「神様からひと言」(光文社文庫)という小説は、「リストラ収容所」と恐れられる「お客様相談室」へ異動させられた主人公と相談室の仲間の奮闘を活写したもので一気に読んでしまいましたが、その中にこんなシーンがあったことを思い出しました。

 独り暮らしの高齢と思われる女性が定期的に長電話をかけてくるシーンです。電話に出たとたん、仲間内では、常連の高齢女性からの電話であることがすぐにわかるのです。高齢の女性は独り暮らしの寂しさを紛らわすために話を聞いてくれる「お客様相談室」に電話をかけてくるのです。

 独り暮らしの状況、身寄りの有無、ご近所との関係などは不明ですが、その高齢女性は、親身になって話をきいてくれるお客様相談室の担当者に救われているのです。

 小説の「お客様相談室」の別称である「リストラ収容所」の担当者は、現代社会で孤立している高齢者の相談にのっている、いや寄り添っている。言い換えれば、大事な社会的役割をはたしているというお話です。 

  (聖生清重)