FISPA便り「老青の豊かな交流」

 総務省が先ごろ発表した「2022年の人口移動報告」によると、東京都では転入者が転出者を上回る「転入超過」が3万8023人で、3年ぶりに超過幅が拡大しました。東京23区は、2年ぶりの転入超過です。

 コロナウイルスの流行で弱まっていた東京への人の移動が、再び強まり、東京一極集中の流れに戻ったようです。新聞報道で識者は「この流れは止まらない」と解説しています。東京在住、地方在住を問わず、そう思う方が多いのではないでしょうか。

 この人の移動をみて、いつも思うことがあります。かねて、このコラムでもふれてきましたが、地方の繊維産地への移住者が増え、産地の資源を活用してファクトリーブランドを開発、販売することで繊維のモノづくりを活性化し、ひいては地域社会を元気にできないか、との思いです。

 実は、全国に散在する繊維産地には、東京など都会の服飾系専門学校などで繊維・ファッションの知識や技術を学んだ若者が移住して活躍していると思われます。ものづくりをしたい、ものづくりの現場で働きたい、と思う若者は少なくないのではないでしょうか。

 そうした希望を抱いている若者が、産地のベテランの職人から技術・技能を学び、吸収する。製品にはデザイン面で新しい感性を付与する。この作業は、言い換えれば「老青」のこころの交流でもあるでしょう。ベテラン職人と若者が豊かに交流することで、新たな価値を生み出す。

 経営者は、ECを活用して販路開拓に努める。「老青」交流の成果は、もちろん、既存の事業にも好影響を与えることが期待できるでしょう。

 「それはそうだけど」、「それは理想だよ」との声も聞こえます。しかし、この方向は、繊維業界がこぞって賛同し、多くの産地企業が実践し、今も実践している「中小繊維製造業者の自立事業」が目指した方向と軌を一にするものだと思います。

 地方への移住でネックになっているのが、仕事の場が少ないことでしょう。移住したくても仕事がないためあきらめざるを得ない。そうした若者もいるに違いありません。

 ファッションが好き、ものづくりがしたい。そうした若者が繊維産地に移住し、そこに存在する歴史や文化、技術を学び、活用して付加価値の高い製品を生み出す。政府の政策支援を期待したいところです。

 「人の移動」、「東京一極集中」のニュースに接するたびに、地方の産地、産地企業で実践されているであろう技術伝承を伴う「老青の交流」が増えることに思いを馳せています。                   

(聖生清重)