FISPA便り「二八蕎麦の理論と経営」

現在は、引退して悠々自適の人生を送っている、ある繊維ファッション業界OB。理論家として知る人ぞ知る存在の方でした。その方の説に「二八蕎麦」の理論(と言うと大げさですが)があります。

「二八蕎麦」は、そば粉8割・つなぎの小麦粉2割で打った蕎麦のことです。「二八蕎麦」の語源では、江戸時代の蕎麦の値段は16文だったので「2×8=16(ニハチ・ジュウロク)」としゃれたという説やそば粉のつなぎの配合比率だとの諸説があるようですが、現在では「そば粉8割・つなぎの小麦粉2割」の蕎麦として認識されています。

くだんのOB氏の二八蕎麦の理論とは、もちろん蕎麦のことではありません。自社が属する産業の成長性を「2割と8割」に重ねたものです。例えば、小売業でもネット小売業は楽天やアマゾンに代表されるように成長産業です。一方、百貨店やGMS(総合スーパー)は成長産業とは言えません。きつい表現をすれば衰退が待ち構えている成熟産業でしょう。

それがどうした、ということですが、OB氏の説では、成長産業に属している会社は、その8割が成長できるが、衰退産業に属している会社は、その2割しか成長できない、とのことです。実際、その通りなのかどうか、時間をかけて調べれば分かるかも知れません。でも、何となく納得がゆく説ではないでしょうか。

現実は、衰退産業に属していても成長している会社がありますし、成長産業に属している会社は総じて成長しているように見えます。しかし、こうも言えるでしょう。成長産業に属していても、2割の会社は成長できず、衰退産業に属していても2割の会社は成長できる、と。

「二八蕎麦」理論とは、要は、経営力という話なのです。この説を話してくれたOB氏の会社は衰退産業に属していましたが、どっこい成長していました。しかし、OB氏が引退した後、その会社は破綻の運命に見舞われてしまいました。

(聖生清重)