FISPA便り「ベストドレッサーとファッションの力」

日本メンズファッション協会(八木原保理事長)主催の第43回ベストドレッサー賞は、政治・経済部門でトヨタ自動車社長の豊田章男さん、学術・文化部門で歌舞伎俳優の片岡愛之助さんと放送作家・脚本家の小山薫堂さん、芸能部門で女優の宮沢りえさんと俳優の鈴木亮平さん、スポーツ部門でプロ卓球選手の福原愛さんと特別賞にフォトジャーナリストの笹本恒子さんが選ばれ、先月27日、都内のホテルで開かれた授賞式で約2000人の参加者の前で表彰されました。

表彰式での楽しみは、受賞者の一言コメントです。謝辞には、受賞の感想、受賞者の人柄、業績に関してのご本人の評価、今後の目標などが如実に表れるからです。

今回受賞した7人の「ベストドレッサー」で、筆者が特に注目した方は、豊田社長です。世界のトヨタのトップがファッションに関して、どんな考えをしているか、それはファッション産業の今後の方向性に何らかの示唆を与えるのではないか、というのがその理由です。

豊田社長は「(受賞の知らせを聞いた時)本当に私なの?と疑いました。社長になってからいいことがなく、社長のシャは謝罪の謝長かと。それを感謝の謝長にしないと」と笑いを誘ったあと、こう話しました。「ファッションに関心を持つようになったら、車に対する見方が変わりました。いい車とは、ワクワク・ドキドキする車だと。それにドラマやストーリーが付いた車。愛が付いた車、愛車をつくりたい」。

「ワクワク・ドキドキ」は、まさしくファッションの本質でしょう。しかも、その背景にドラマやストーリーが埋め込まれていたら。それこそがブランドではないでしょうか。ちなみに、授賞式当日に着用したスーツは、メード・イン・ジャパンだそうです。

もうひとり、日本初の女性報道写真家の笹本さん。100歳にして現役の報道写真家です。マリ共和国の泥染めレザーを自分で裁断して縫ったポンチョをまとって登壇し「夜は、肉と赤ワインで食事」と健康の秘訣を披露した後「社会に埋もれている、いい仕事をしている人を探し出してインタビューしたい」と仕事への意欲をさらりと述べました。 その好奇心に脱帽です。

(聖生清重)