FISPA便り「皆川明さんの仕事に学ぼう」

先日、ファッション産業人材育成機構(IFI)の繊維ファッションビジネス研究会のセミナーに行ってきました。講師は「ミナ ペルホネン」代表でデザイナーの皆川明さん。筆者は、2000年代初めに皆川さんにお会いして以来、「皆川さんの仕事」を高く評価しています。以下、講演の要旨です。

「1995年に、1人でブランドを立ち上げました。八王子の繊維工場でテキスタイルから製品まで学びました。デザイナーと工場が一緒になって新しい価値を生み出す。その循環をつくりたいと思いました。デザインが形になるためには工場が必要です。それに、つくり手(工場)の金銭だけではない労働価値というか、生きる意味、幸福感をシェアしたい。そんな思いでした」

「私は、魚市場で働きながら服をつくっていました。魚の鯛は1㎏当たり3000円。正味の身は6割。ですが、優秀な料理人は頭もヒレも使いきる。そこで、裁断した余りの布、捨てられる運命にある残布を生かすことを考えました。機屋、染色メーカーの労働を無駄にしないことも大事です。福祉施設の人に手伝ったもらい残布でバッグを月に800-1000個つくります。1個1万8000円で売っていますから、1000万円以上のプロダクト(製品)になります。それでも発生する残布は包みボタンにして1袋500円で売っており、月に2000袋売れます。これで布の99%を使いきります。売り上げは施設で生活している少年の自立に備えた進学資金に充てています」

「ショップスタッフは、掃除のため開店の1時間半前に出勤します。しかし、掃除の仕方を、左手に濡れた布、右手に乾いた布、霧吹き活用に改善したところ、30分前の出勤で済むようになりました、労働の無駄をはぶいたのです」

「ファッション製品は、通常、販売から数カ月で価値が落ちる。それが正しいことなのか。否定はしませんが、私はセールはしません。ウェブを含む直営8店舗の消化率は93%です。アーカイブで販売するショップがありますから、残りの7%分はそこで売りきっています。全製品はお直し可能で、古い服の生地の取り換えにも応じています。新品が売れなくなる心配はありません。その消費者はリピーターになってくれます。それが理念なのです」

「ブランドを立ち上げた時、メモに『せめて100年』と書きました。ブランドとは、何年もの時間が経過してから社会が認めるものだと思います。私は、だから駅伝走者のようなものです。100年のうち30年を走る。来年、その30年になりますが、毎年、100年後を考えています」

(聖生清重)