FISPA便り「もう一度書きたい皆川さんの理念」
前々回のこの欄で「ミナ・ペルホネン」のデザイナー兼代表である皆川明さんのデザイン、仕事感、ビジネスの仕組みなどを紹介しました。(11月26日付「皆川さんの仕事に学ぼう」)極力、ご本人の言葉をお伝えしようと、余分な感想を控えて記述しました。しかし、その後、どうしても感想を書きたくなり、もう一度、「皆川さんの仕事」に関しての感想を書くことにしました。
皆川さんの理念で素晴らしいのは、人間賛歌というか、人が生きてゆく上で必要な「労働」に対する考え方です。「ミナ・ペルホネン」ブランドの生地は、すべて皆川さん自身が工場に入り込んで工場の職人と一緒につくったオリジナル。つくった生地は、服に変わり、残った端切れはオリジナルバッグや包みボタンに変身します。捨てられる運命にある残布に新しい命が与えられ、ビジネス面でも堂々たる製品になるのです。
皆川さんは、無駄を出さない、こうした仕組みは魚市場で働いていた時の経験に学んだそうですが、オリジナル生地の99%を使い切るのは、実は、生地をつくった人の労働を無駄にしたくないからなのです。せっかくつくった大事な生地。だからわずかな無駄も出したくないのです。皆川さんは、こうも言っています。「工場の人とつくること、つまり労働による幸福感をシェアしたい」。
販売面でも、皆川さんの労働観が明確に出ています。「ミナ・ペルホネン」は販売にあたってセールは一切していません。「ファッション製品はセールという慣行の中で、その価値が数カ月で落ちる。否定はしませんが、セールはしないで消化することを考える」からです。実際、消化率は93%。残りの7%分も「ミナ・ペルホネン」のアーカイブを売る直営店で販売しているそうです。
生地は、ほぼ全量を使い切り、製品もすべて売り切る。効率経営のお手本のようですが、実は、ここには「生地も、製品も、それをデザインし、つくった人の労働の価値がある。その価値を大事にしたい」との思いからのことなのです。もうひとつ、付言すると、皆川さんの名刺には「皆川明」の名前と「ミナ」の社名しか入っていません。肩書きは記してありません。
(聖生清重)