FISPA便り「アパレル産業と忠臣蔵」
もう、40年以上前の話です。所得倍増を掲げ、実行した池田勇人首相の時代の日経連会長で日清紡の社長だった故・桜田武さんから「紡績業は忠臣蔵」だとのご高説をお聞きしたことがあります。「大根役者が演じても客が入る忠臣蔵のように、紡績業は人間が存在している限り無くならない産業だ」というのが、その真意でした。
それからしばらくして、確かに紡績業は無くなっていませんが、役者は日本人から中国人に代わりました。紡績業は、人間が存在している限り無くならない産業であることはその通りですが、労働集約型産業は高賃金国から低賃金国に移動するとの産業史の定説を免れることはできませんでした。
その伝で言えば、アパレル産業もまた、人間が存在する限り無くなることはない産業です。しかし、紡績業と忠臣蔵のように、演じる人は同じではありません。日本市場に供給されるアパレル製品の95%以上が中国を初めとした海外産であることは(輸入品の何割かは日本企業の海外生産品であるとしても)主役が日本人以外になっている事実を示しています。
アパレル産業と忠臣蔵。この関係で心配なことがあります。無くならないアパレル製品を、中国人が作り、販売することは産業史の必然だとしても、「繊細な感性と職人の匠の技から生まれる日本製テキスタイルを使用し、安心・安全で高い技術力を持つ日本で縫製したメード・イン・ジャパン製品を中国人が企画・生産・販売する日が来るのではないか」との危惧です。日本にやってくる中国人旅行者が、買い物をする場合、商品を問わず「メード・イン・ジャパン」にこだわっていることは良く知られています。
アパレル業界では、「メード・イン、ジャパン」の認証制度をスタートさせようと鋭意、検討を重ねています。是非とも「メード・イン・ジャパン」にふさわしいブランドを開発し、日本国内だけでなく消費が旺盛なアジア市場にも進出してもらいたいものです。もうすぐ来る新たな年の最大の課題でしょう。
忠臣蔵は、日本で、日本人が演じてこその舞台だと思うからです。
(聖生清重)