FISPA便り「応接室の絵と社史」

本棚の整理中、15年前の新聞の切り抜きが出てきました。現在は発行されていない日本繊維新聞のコラムです。内容は「得意先の応接室に案内された際、どんな絵が掛けられているのか、とつい興味を向けてしまう」というものです。筆者は絵画に造詣が深い武藤治太ダイワボウ社長(当時)です。

以来、筆者は応接室に通されると、飾ってある絵を見る習慣が身に付きました。ほとんどの応接室には、それらしい絵が飾ってあります。もっとも、絵の価値を判定できる能力はありません。「ふーん」と一瞥するだけですが、その一方では美術館や百貨店などで開かれる絵画展にも足を運ぶ頻度が増えました。武藤さんから絵に対する興味を引き出していただいたわけです。

一種の内緒話ですが、当時、オンワード樫山社長(現オンワードホールディングス名誉顧問)の馬場彰さんにこの話をしたことがあります。その時(馬場さんは、覚えていらっしゃるかどうかわかりませんが)こんな話をしてくれました。ある時、オンワードの本支店に「保有している絵を調べるように」との号令をかけました。結果は、それなりの“お宝”があったそうです。

応接室と絵。似合う関係にあることは間違いありません。しかし、ほとんどの場合は目にかけてもらっていないように思えます。しかし、飾ってある絵は、その会社の文化度を示していると言えるかも知れません。

応接室と言えば、絵のほかに飾ってあるものがあります。必ずというわけではありませんが、伝統と歴史のある大会社ほど、置いてあるように思えます。

社史です。自社の社史や取引先の金融機関の社史が多いように思えます。分厚い社史は、いずれも立派な装丁で、なかには何巻もあるものもあります。

ただ、この立派な社史ですが、応接室の社史は、1ページもめくってもらうことがないままに社史としての一生を終えるのではないでしょうか。ちなみに依頼を受けて社史を書く仕事をしている友人に聞きますと、社史の編集は「作業が大変で時間がかかる割に儲からない」のだそうです。

同じ応接室に飾られている社史と絵。来訪者に見てもらえる分、絵の方が幸せかも。

(聖生清重)