FISPA便り「英国の街の実験と地方公務員」

 手元に2011年8月26日付の朝日新聞のコラムがあります。英国西部ウェールズ地方の人口1万6000人の街で行った実験の結果を報じた記事です。見出しは「監視員なき道路の末路」で、ざっとこんな内容です。

 「英国西部の街で、地元警察が予算節減のため、駐車違反の監視員3人を全員解雇した。容赦ない取り締まりから『解放』される市民は喜んだ。ところが、駐停車禁止の道の両側は車でびっしり。消防車や救急車の出動にも支障がでる。横断歩道を車が通せんぼするので、車いすの人は急な段差を上り下りしなければいけない。駐車スペースの取り合いでドライバーの殴り合いも起きたとか」。

 コラムは「『取り締まる人がいないと規則は守られない』という実験結果は、ちょっぴり残念である」と結んでいます。このコラムを後生大事にとっておいたのは、コラムが「人は、どこまで規則を守ることができるのか」という人間の良心に対する一つの答えだと思えたからです。良い子ぶるわけではありませんが、筆者も「残念な結果」だと思います。

 何故、今になってこのコラムを思い出したかと言いますと、連休明けに人口12万人強の地方都市の元公務員の同級生と食事をとりながら雑談したからです。話を聞くと、徴税や社会保障関係の部署では、わがままな市民が少なからずいて、頭を悩ませられたそうです。「税金泥棒」と怒鳴られた経験も話してくました。

 地域社会のために。「公」への使命感を胸に公務員になったものの、忙しさと世間の理不尽とも言える風当たりの強さに挫折感にとらわれている公務員も少なくないようです。

 しかも、多くの地方自治体は、人件費を削減するため職員の数を絞り、その一方では低賃金の非正規職員を増やしているのが実情でしょう。そうした非正規公務員も含めて、公務員がやる気をなくしたとしたら、市民生活のあちこちで「英国西部の街の実験」のような事態が起こりかねないのではないでしょうか。特別に地方公務員の肩を持つわけではありませんが、友人との会話を通じてそう思いました。ちなみに、英国西部の街の監視員は、市民の悲鳴で復活したそうです。                        

(聖生清重)