FISPA便り「石井銀二郎さんの俳句と川柳」

 先日、拙宅に147ページの冊子が届きました。タイトルは「空海俳壇 第2集」です。贈ってくださったのは、東レ常務、一村産業社長として繊維業界で辣腕をふるった現日本ユニフォームセンター理事長の石井銀二郎さんです。1999年に発足した「空海俳壇」の仲間10人の同人誌で石井さんは奥方と一緒に寄稿しています。

 石井銀子、こと石井銀二郎さんは、肉親や友の死、東日本大震災被災者への鎮魂、家族などを詠んでいますが、秀逸なのが「生き様」を詠んだ句。「職を辞す 真昼の蕎麦屋 冷やし酒」や「我もまた 秋の金魚や ひと眠り」は、苛烈だったであろうビジネス人生の哀歓をしみじみ感じさせ、実に味わい深いものがあると思います。

 石井さんは、個性的な風貌から、「東レのジャン・ギャバン」の異名を持っていました。ジャン・ギャバンは「望郷」などで知られる、深みのある演技と渋い容貌で人気を博したフランスの名優ですが、「こわもて」のイメージがあります。本人も同人誌で「生き様としてはチョイ悪を気取りながらも高潔にして洒脱に過ごしたい」と書いていますから「チョイ悪」は「確信犯」です。しかし、実像は、繊細なこころを持ち、風流を愛する「好漢」です。

 一村産業社長だった時、東京支社に石井さんを訪ねたことがあります。会社の受付に行きますと、何と、受付の机上に「ウエルカム・Mrセイリュウ」の看板が置いてありました。「ウエルカム・ボード」と言うそうですが、石井流「お・も・て・な・し」に感激、感心したものです。

 そんな石井銀子さんは、味のある俳句をものにする一方、川柳もなかなかの腕前です。

「Trust me オバマこっそり 辞書を引き」、「虚偽天声 謝罪の人語 沈黙す」。森羅万象を笑い飛ばすことで、世間や己に警鐘を鳴らしているのかも知れません。

 うらやましいのは、奥方も「福ねずみ」の号で句作する同人であることです。5月句にはこんな句を寄せています。「巣立つ子の後ろ姿や柏餅」。

                             (聖生清重)