FISPA便り「アゾ染料で重要性増す生産履歴」
2012年4月25日付の当コラムで触れた「特定芳香族アミン染料」を使用した繊維製品の販売規制が法制化されることになりました。厚生労働省は去る4月8日、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」第2条第2項の物質を定める政令の一部を改正する政令を公布しました。
これにより2016年4月1日から特定芳香族アミンを規定量以上使用した繊維製品は、日本国内で販売できなくなり、違反した場合は罰則が適用されます。
繊維製品の有害物質規制では、ホルムアルデヒト(ホルマリン)については、乳幼児服のほぼ全品検査などで厳しい対応を余儀なくされている日本ですが、芳香族アミン(アゾ化合物)は規制の対象外でした。着衣の染料が溶けて体内に入り、人体に障害が発生したケースは確認されていませんが、繊維製品への安心・安全の観点から、すでにEU、中国、韓国、台湾などでは規制しています。このため、日本でも2012年3月に日本繊維産業連盟が「繊維製品の係る有害物質の不使用に関する自主基準」を一般公開し対応してきました。
こうした中で厚生労働省は、さらに踏み込んで法律で規制することにしたものです。自主基準から法律による規制へと規制が強化されることになりますが、その対応を巡っては多くの企業が戸惑いを隠せないのが実情です。現状では、日本の染色メーカーは「不使用宣言」をしており、安全が確認されています。中国でも「不使用宣言」した染色メーカーの「ホワイトリスト」によって管理しています。
しかし、日本市場に供給されるアパレル製品の97.0%が輸入品で占められているようにグローバル化した現在、繊維製品の縫製までは追跡できますが、その生地や原糸がどこで生産されたのか、どこで染色されたのか、すべてを突き止めることが極めて困難なケースがでてくることが予想されます。ある商社の担当者は「例えば、複数の原料を混ぜた複合素材の場合、どこのどの染色工場で染めたのかを突きとめるのは事実上、不可能だ」と言います。
製品の全品検査をすれば、問題はありませんが、アゾ染料の検査費用は高く、現実的ではなさそうです。つまるところ、仕入先企業に不使用宣言を求めている現状から、不使用宣言した染色メーカーの「ホワイトリスト」などによる生産履歴の把握に頼ることも予想されます。
都道府県の消費者センターなどによる抜き打ち試験というリスクが十分想定されることから、今後、生産履歴の把握に従来以上に神経をとがらせなければならいことだけは確かです。
(聖生清重)