FISPA便り「残して欲しい「繊維」の名称」
今月初めの繊維ファッション業界専門紙によると、我が国の繊維産業行政をつかさどる経済産業省の組織の名称から「繊維」が消える可能性があるそうです。時代の変化につれて、新しい産業が生まれ、成長し、やがて成熟する。その一方で、歴史のある産業は、成熟から縮小へと転じ、産業界の主役の座を新しい産業に譲る。産業の勃興から成熟の流れに思いをはせると、産業も企業も人間などの生物同様、誕生から死までの運命はまぬがれず、時代変化に適応した「種」だけが生き残る。いささかオーバーかも知れませんが、くだんの記事で、そんな悠久の時の流れにしばし、とらわれました。
経産省の2016年度機構改革案には、製造産業局の再編が盛り込まれています。案では繊維課、化学課、住宅産業窯業建材課、紙業服飾課、日用品課などをBtoB(企業間取引)=素材系とBtoC(企業対消費者取引)=生活資材系に分けることになっています。これに伴い現在の「繊維課」関連は、炭素繊維以外は生活資材系が担当することになります。その「課」の名称は、「化学・繊維・日用品課」や「生活産業課」が検討されているとのことです。
筆者は、1970年から40年間、繊維産業界の専門紙に身を置いてきました。振り返ると、新人記者の頃の繊維行政は繊維雑貨局が担当していました。局の名称に「繊維」が付いていたのです。その後、1973年に繊維雑貨局は「生活産業局」に、1997年には原料紡績課と繊維製品課が統合されて「繊維課」になり、2001年には生活産業局は「製造産業局」に再編されました。
そんな歴史を時代、時代の出来事と合わせて思い出すと、経産省の組織から「繊維」の名称が無くなるとなれば、寂しさはぬぐえません。もとより、長く繊維記者を続けてきた筆者の郷愁だと思います。IT関連に代表される新産業の育成は必要ですし、出荷額や雇用数、会社数などで全産業に占める比率が低下し続けている現実では、行政組織の変更もやむをえないと言うべきでしょう。
とは言っても、「繊維」は人類生存に必須な「衣食住」の一角を担う素材であり、「炭素繊維」や「アラミド繊維」のような新素材を生んだマザー産業であり、他方では「ファッション産業」という文化性がある先進国型産業とは不即不離の関係にあること、産地では、地域社会の基盤になっていること、さらには明治の近代化、戦後復興に多大な貢献をした事実を想起すれば、何とか「繊維」の名前は残すべきではないかと思います。
(聖生清重)