FISPA便り「TPOはどこに行った」

 寒い日の先夜、プレタブランドで定評のある、あるアパレル企業の元社長と最近のファッションアパレル業界の話題を肴に酒席を共にする機会がありました。仮にその方をAさんとします。Aさんの話は、現状分析に納得がゆき、かつ示唆に富むものでした。

 まずは、最近のアパレル消費での中間ゾーン不振の話題です。Aさんが社長を務めていた企業も、中間ゾーン、とりわけエレガントな女性らしいファッションの消費不振で厳しい経営状況が続いているそうです。そんなある日、Aさんの奥様は友人とバレエ鑑賞に出かけたそうです。話はそこで目にした観客のファッションです。観客は総じてバレエ鑑賞にふさわしいとは言えないカジュアルなファッションだったとか。A夫人は、エレガントなファッションで出かけたそうですが、バレエ会場ではいささか「浮いた」感じだったそうです。

 ファッションのカジュアル化は、すでに定着し、一段と進行しているようですが、Aさんは奥方の話を聞いて愕然としたそうです。しかし、話はこれだけではありません。Aさん自身もある統計で「エレガンスファッション」が不振の理由を“解明”したそうです。新聞で報道される「新車販売ランキング」とファッションの関係です。

 2016年1月の「車名別新車販売ランキング」のベスト10をみますと、第一は「プリウス」ですが、10位までに軽自動車が6ブランド入っています。燃費がよく、価格も手ごろで、維持費も安い軽自動車人気が続いていることがわかります。軽自動車が人気を集めていることそのものをとやかく言うわけではありませんが、Aさんが気になるのは「軽自動車とカジュアルファッション」は似合うが「軽自動車とエレガントファッションは似合わない」という点です。

 長く続いたデフレ経済の影響もあるのでしょう。若者の車離れの影響もあるのかも知れません。しかし、Aさんは、バレエ会場のファッションのカジュアル化と軽自動車人気とともにあるカジュアルファッションが「今の流れ」であることに思いいたったとのことでした。

「TPO」(時・場所・場合)が崩れている。Aさんは、TPO崩壊を痛感し、例えばテレビに登場する女性陣にエレガントな服を提供するなりして「TPO」を復権させる必要がある、と力説していました。この話を聞いて以降、テレビのアナウンサーや気象予報士のファッションを観察すると、まさしくカジュアル化が進行しているように感じます。今さら、何を言っているの、と言われそうですが…。                        

(聖生清重)