FISPA便り「TX輸出統計で考えたこと」
日本の繊維産業は、かつて花形輸出産業だったことがあります。戦後復興でも貴重な外貨獲得産業として日本の経済成長に貢献しました。今日、その隆盛は過去のものなっています。しかし、2015年の日本の繊維品輸出は78億ドル(9500億円)で高コスト国のハンデを克服して健闘しています。
その一方では、世界を代表する繊維素材展であるパリのプルミエール・ヴィジョン(PV)、ミラノのミラノ・ウニカ(MU)に出展し、欧州の有力ブランドメーカーなどから高い評価を受け、現にエルメス、シャネル、グッチといったラグジュアリーブランドに相当量が採用されていると言われています。これらは、守秘義務が課せられているため、表面には現れませんが、確かな事実だと思われます。四季を通じて磨かれた繊細な感性、高度な科学技術、職人の匠の技から生まれるテキスタイルは、世界に冠するものだと言えるでしょう。
ところが、現状ではPV、MUから聞こえてくる高い評価は、日本の輸出統計に表れていません。テキスタイルに分類される織物輸出は2015年でも各種類とも減少しているのが現実です。極細糸を使用した超高密度織物輸出を含む「人造繊維の長繊維、同織物」輸出は、前年比7.0%減少にとどまっています。
バイヤーからの高い評価が、何故、輸出統計に反映されていないのでしょうか。ある専門家の分析によりますと、日本のテキスタイルは、感性、品質、安心・安全などで評価が高いものの、全体的には国内の生産力は低下傾向に歯止めがかかっていない。産地企業の多くが人手不足、後継者難に悩んでいる。個別企業や個別の素材は別としてマスの統計に増加として反映される状況ではない、とのことです。
去る2月に商社の団体である日本繊維輸出組合が、5年先の繊維品輸出の見通しをアンケート調査しました。約50社の回答による今5年先の繊維輸出は微減か良くて横ばいとの結果でした。商社は、日本からの輸出より、第三国で生産し、第三国に輸出するグローバル戦略を指向していると見られます。
こうした状況から考えられることは、「世界に冠たる」日本のテキスタイルは、世界のファッションブランドの頂点に位置するブランドに使用されることが期待されますが、量的には限られることから、高機能の合繊織物のような量が期待できる織物を不断に開発しれない限り、全体的には「良くて、横ばい」なのでしょう。夢が乏しい見通しかも知れませんが、産地の中小機業の匠の技から生まれる、マスの統計には表れない素材にも活躍の場があると言えるのではないでしょうか。
(聖生清重)