FISPA便り「アパレルSC報告書を読んで」

 経済産業省が昨年12月から研究会を設けて議論してきた「アパレル・サプライチェーン(SC)研究会」の報告書(案)がまとまりました。5月末までには最終的な報告書として仕上げることになっています。その骨子を読んで、まず思ったことは、日本のアパレル産業が置かれた現状の厳しさです。

 報告書は、序「なぜアパレル・サプライチェーン・ビジョンか」に始まり①アパレル産業が直面する課題②我が国のアパレル産業の強みをどう活かすか③アパレル産業の将来に向けたビジョンと政策の方向性―からなっています。

デフレ経済下のコスト削減の中で、国内のサプライチェーンの脆弱化が進展している、との認識から「サプライチェーンを再構築して国内外の市場を開拓していくための戦略(ビジョン)」を示しています。アパレル企業だけでなく、サプライチェーンに参加している素材メーカーや小売業者にも読んでもらいたい内容です。

将来に向けたビジョンでは、「潜在的なニーズを具現化する新商品の開発」、「日本アパレルの比較優位である素材開発と加工技術。生地輸出の拡大、技術力と消費者ニーズをマッチさせた服作り、Japanese Apparelの海外展開」などを挙げています。

その通りでしょう。しかし、報告書の参考資料集から浮かび上がった日本アパレル産業の現状の厳しさには、改めて愕然とさせられます。一例をあげると、デフレの衝撃です。1990年のアパレル製品(下着を含む)の総供給量は20億枚。2014年には40億枚に倍増しました。ところが、市場規模は15兆円から10兆円と3分の1に縮小しています。単価ダウンのすさまじさには驚かせられます。そうした中で、アパレル製品の国内生産比率がわずか3%に過ぎないことはかなり知られています。その上、国内製造の空洞化はまだ止まっていません。

こうした厳しい現実の中で、アパレル企業はどう生き残ろうとしているのでしょう。大手アパレル企業は、ECビジネスの拡大と海外進出に活路を求めていますが、多くの中小アパレル企業は、どうしたらよいのでしょう。ビジョンは、サプライチェーン再構築やオムニチャネル化への対応、ファッションテックの事例にも触れています。しかし、多くのアパレル企業は、「解っているが…」どこからどう着手したら良いのか、とまどっているのが実態ではないでしょうか。

ビジョンは、産業界が共通認識を持つ上でも必要ですが、個別企業は、そこから何を学ぶべきなのでしょう。少なくとも、日本素材の優位性を活かした新商品の開発、言い換えればアパレル産業の本質であるクリエーションに再度、挑戦してもらいたいものです。クリエーションなくしてアパレルSCの再構築もない、との気概で。                    

(聖生清重)