FISPA便り「夏も冬も黒色が定着」
ファッション業界人、とりわけ女性のファッション業界人は、何故、黒色の服を好むのだろう。現役記者の頃、ファッションショーに行った際、最前列に陣取る女性ファッションジャーナリストの多くが黒い服を着ていたことに違和感を覚えたことがあります。彼女たちは、常々、「個性的な服」、「個性的な着こなし」の重要性を指摘しているのに、自分たちは判で押したように「黒の服」とは、何故だ。日頃の言動と矛盾しているのではないか、と。
ファッション業界人なら周知のことでしょうが、女性ファッションにおける黒色は、1980年代のパリコレクションで日本の川久保玲、山本耀司が黒色のファッションを発表したことが爆発的ブームのきっかけです。それまでは西洋ではタブー視されていた黒が、まさしく「黒の衝撃」となって、世界のファッション界に広がり、革命をもたらしました。
以来、日本では黒が女性服飾色として定着してきます。日本色彩研究所は、1955年以来、半世紀を超えて女性の服飾色を測定してきました。その貴重な研究データによりますと、黒の普及率は2015年についに30%を超えたそうです。冬場の普及率は、34%高まります。過去50年間の測定データのグラフを見ますと、黒は80年代から上昇に転じ、2000年の秋冬に20%台後半に減少したものの、それ以外は右肩上がりでシェアを高めています。
黒は夏も冬も、春も秋も、四季を通じて好まれているのは何故でしょう。「黒は黒でも素材や形態を多様に使い分けている」とか「黒は素材や形態を生かす色」といったことが「黒の定着」の理由としてあげられますが、実際はどうなのでしょう。
ところで、ファッションでスタイルになった黒ですが、「黒猫」となると、こんなかわいそうな現実があります。日本色彩研究所の研究によりますと、米国の場合ですが、アニマルシェルター(動物保護施設)に収容された猫の約70%は安楽死させられるのですが、シェルターから里親に救われる機会では、黒猫は他の色の猫より明らかに少ないのだそうです。
ひるがえって、日本では映画「魔女の宅急便」に登場する黒猫の「ジジ」や熊本県の人気キャラクターの「くまモン」のように、黒色の動物に対して「かわいい」とのイメージがもたれていると思われます。だから、日本では黒色の服が好まれているのだ、と主張する気はもうとうありませんが。
(聖生清重)