FISPA便り「家業から企業へは少数派?」
11月下旬に織物の展示商談会が開かれた東京・有楽町の東京国際フォーラムで先週は、ニット製造業者の展示商談会「ジャパン・ベストニット・セレクション」(JBKS)が開かれました。全国のニット製造業者66社が、繊細な感性と技術、優れた生産システムを駆使して開発した、オリジナルなニット製品・テキスタイルを披露することで新たなビジネスにつなげるのが目的です。
会場では、出展者のほか、長いニット業界での経験を生かしてニッターの顧問を務めている元商社マン、来場していたアパレル企業の担当者などから話を聞きました。気になっていた点は2つです。1つは昨年来続く、アパレル製品の中間ゾーン不振の影響はどうなのか。もう1つは、多くのニッターがかねて目指している自立化のその後、です。
前者に関しては、国内ニッターの主戦場であるミセスの高級ゾーンは、いわゆる中間ゾーン不振にもかかわらず、比較的、安定している、とのことでした。伸びないかわりに、これ以上は減らないところまで市場が縮小しているのがその理由のようです。
後者は、どうでしょう。自社で企画・生産・販売する自立化は、「脱下請け・賃加工」を実現して、厳しい国際競争を生き残る戦略です。あるニッターは「10年前から自社ブランドでの販売に転換してきたので今がある。自立に努めなかったら廃業していたかもしれない」と話していましたが、多くのニッターは自立の道の厳しさに直面し、道半ばのようです。
中小繊維製造業者の自立は、正しい方向だと思います。しかし、現実は販路開拓と維持、素材調達の困難さが高い壁になっているようです。新商品開発に欠かせない新しい糸の情報量では、世界にネットワークを築いている商社に太刀打ちできないというわけです。
そんな状況下、産地のニッターでは、家業であることに強みを発揮して生き残る道を選んでいる企業が少なくないとの話が印象に残りました。祖父や親から引き継いだ資産を維持し、売り上げ拡大より、小規模であっても安定した経営を指向する。
その背景には、国内衣料品市場の97・0%が輸入品になり、アウター・セーターでは実に99・0%が輸入品で占められている現実がありそうです。残された、しかし、これ以上は縮小せず、逆に、海外生産100%だったアパレル企業がわずかでも国内生産に回帰する動きもある中での中小製造業の生き方としては妥当なのではないか、と思わされるものです。
「成長」か「安定」かは、もとより個社の経営判断ですが、それでも「家業から企業へ」を目指す人は、どこかで出現するのでしょう。
(聖生清重)