FISPA便り「鳥の目、虫の目で新年を読む」

   年末になると、過ぎ去る年を振り返り、来る年に思いを馳せる機会が増えます。その際「鳥の目、虫の目」で考える癖がついています。鳥の目で大局を読み、虫の目で現実をつぶさに読む、というものです。人によっては、これに流れを読む「魚の目」を加えるようです。

 まずは、繊維ファッション業界の来年の課題です。最大の課題は、昨年来続く、アパレル製品の中間ゾーン不振の打開でしょう。ことは、当のアパレル業界だけの問題ではなく、百貨店、テキスタイル・ニット、縫製業界といった川上から川下の業界に影響が及んでいる業界ぐるみの課題ですから。

 キーワードは「上質化」ではないでしょうか。手の届く価格の「メード・イン・ジャパン」の“ジャパンラグジュアリー”。世界のラグジュアリーブランドが採用している日本のテキスタイルを使って、高度な縫製技術、繊細な感性から生まれる、日本の美を備えたファッショナブルなブランドを「J∞QUALITY」を活用して開発し、快適な環境とサービスで提供することで、中間ゾーン不振を打開してもらいたいものです。

 こうした中で、勃興から30年。成長を続けてきた勝ち組のセレクトショップが成熟し、次の成長戦略をどう描き、実施するかにも注目したいと思います。

 もう一つの注目点は、アフリカです。鳥の目で世界の繊維産業の中心の移動を見ると、18世紀の産業革命で勃興した繊維産業は、その後、英国から海を渡って米国、そして日本、中国へと中心が移ってきました。低賃金を求めて西進してきて、次はアフリカに移る。

現に、中国紡織品進出口商会によりますと、今年、中国の大手繊維企業2社がエチオピアへの進出を開始しました。江蘇陽光集団は、5万錘の設備で毛糸を生産し、年間1000万メートルの毛織物、同100万点の高級スーツの生産を計画しています。また、大手先染織物メーカーの江蘇聯発は、20万錘の設備で、染色織物、先染織物、アパレルを毎月、それぞれ250万平方メートル、250万平方メートル、300万点する計画だそうです。

AGOA(アフリカ成長機会法)受益国のエチオピアは、欧米に免税で繊維製品を輸出できます。加えて、豊富な労働力があり、労働賃金も安く、スエズ運河経由で欧州輸出する時間は東南アジアの3の2などの魅力を備えていることが進出の動機のようです。

 トランプ米国大統領の登場で世界情勢はどうなるのか。予断はできませんが、繊維ファッション産業の幸いを祈って、今年、最後の駄文とします。

(聖生清重)