FISPA便り「引退後の幸せな人生」
以前、この欄で触れたように、「毎日が日曜日」の引退後の生き方では「教養」と「教育」が大事ですが、そうした生き方を実践している方々にお目にかかりました。そうそう、「教養」は、「今日、用事がある」の「キョウヨウ」で「教育」は「今日、行くところがある」の「キョウイク」ですので念のため。
4月中旬の夏日だったある日。東京・浜町のとある画廊で開かれた美術展への出展者達。男性も女性も揃って「キョウヨウ」も「キョウイク」もある方々ばかりでした。会場に展示されていた作品は、水彩画、油彩画、銅版画、写真、書、切り絵、陶器、紙人形、篆刻、ニットの数々。
制作者は全員、元鐘紡パーソン。会社はすでに存在していませんが(事業は他社で承継されています)鐘紡で仕事に全力をつくしたOB・OG諸氏もすでに古希や傘寿を過ぎたと思われますが、いまでも元気に好きな美術作品を制作しながら旧交を温めていました。
鐘紡のOB・OGによる東京での「鐘友美術展」は、毎年4月に開催され、今回で37回を数えます。同様の美術展は大阪でも開かれているとのことです。
筆者が、現役の記者時代にお世話になったKさん。齢は80歳を超えましたが、数年前から水彩画を描き、毎年、出展しています。久しぶりにお目にかかったのですが、出展したスペインの街角を描いた水彩画の前で「全然、上手くならなくて…」と話す割には、お世辞抜きに上達していました。
出展したOB・OGは、約40人。中には、趣味の範疇を超える作品もありました。そうした方は「元テキスタイルデザイナーや化粧品、食品などのパッケージデザイナーだった人が多い」とのことでした。基本ができているのでしょうか。こうした傾向は大阪での「鐘友美術展」でも同様だそうです。
しかし、問題は上手い、下手ではありません。美術制作が引退後の人生を豊かなものにして、「キョウヨウ」と「キョウイク」を授けてくれるのですから、「キョウヨウ」も「キョウイク」もなく、ましてや無趣味の人からみれば、うらやましい限りではないでしょうか。
Kさんは、その夜は懐かしい仲間と居酒屋に繰り出したに違いありません。
(聖生清重)