FISPA便り「人口少数の『村総会』に思うこと」
人口が約400人の高知県大川村が、村議会を廃止し、有権者全員で予算案などを審議する「村総会」の検討を始めたとのニュースに接しました。日本経済新聞6月13日付によりますと、村総会を検討することにしたのは、議員のなり手不足に備えた窮余の策だそうです。
選挙では、目下、東京都議選が全国的な関心を集めています。しかし、地方に目を向けると、東京都とは違った光景が見えてきます。人口1000人以下の村は全国に28あり、大川村を除く27村の村議会議長にアンケートしたところ、4村が「村総会」の検討の必要性を感じているとの結果が出たのです。
今後、日本社会は人口減少が免れないと予測されています。「限界集落」も増えるでしょう。そうした時代での地方自体の形はどうあるべきなのか、悩ましい課題です。
ところで、このニュースに接して、事業者団体のトップのなり手が不足しているとの声があることを思い出しました。
例年6月は、多くの事業者団体の総会もこの時期に開かれます。繊維ファッションSCM推進協議会もさる13日に総会を開きました。総会では、前年度の決算や事業報告、新年度の予算や事業計画を審議、承認するとともに、役員人事を決めるのが通例ですが、最近は、事業者団体で役員とりわけトップの理事長のなり手が少なく、新理事長の選出に悩む団体もあります。
事業者団体は、同じ業種の企業が共に発展するため、通商や税制など個別企業では対応できない共通の利害に対して、一致団結して対応するうえで必要な組織です。国や社会に対して自分たちの役割をアピールしたり、新技術や世界の情勢などの情報を提供することも大事な機能です。
ところが、そんな事業者団体で理事長人材が少ないとの声を耳にするようになりました。グローバル競争が激化したことで、個社の経営に忙殺され、団体トップとして産業全体の発展に務める余裕がないのが現状なのでしょうか。産業全体より自社の業績を優先せざるを得ない事情は理解できますが、それでよいのでしょうか。
産業を「森」、個別企業を「木」に例えると、木は森がなければ成長できません。森と木は一体の関係にあるのだと思います。野中の一本杉は、詩情をさそいますが、安定感には欠けるでしょう。
人口少数の自治体のあり方と事業者団体トップのなり手不足は、性質は異なりますが、本質的にはそれぞれの組織の本質にからむ問題をはらんでいると思います。
(聖生清重)