FISPA便り「楽しきかな『平井バー』」

 東レ相談役の平井克彦さんが、6月27日付で相談役を退き特別顧問に就任しました。繊維業界のリーディングカンパニーの社長として、また、日本化学繊維協会会長や、日本ファッション協会、日本ファッション・ウィーク推進機構、ファッション産業人材育成機構の副理事長を歴任するなど、自社にとどまらず、広く繊維ファッション業界の発展に尽くされました。

 筆者が初めて、平井さんにお目にかかったのは、平井さんがテキスタイル販売の課長の頃です。自分が課長を務める課の現状や今後の方針を堂々と述べていました。明快でメリハリのついた発言と自信に満ちた態度を昨日のことのように覚えています。

 以来、取材を通して親しくお付き合いをさせていただきました。数えられない多くのエピソードの中でも忘れることができないのは「平井バー」です。日本ファッション協会が窓口のアジアファッション連合会(AFF)という組織があります。日本が提唱して2003年暮れに東京で発足、日本、中国、韓国、シンガポール、タイ、ベトナムの6カ国が加入して、相互理解やアジアファッションの世界への発信などに努めています。

 AFFは、一昨年まで、各国持ち回りで大会を開き、各国が代表団を送ってきました。AFFのリーダーであり日本代表団の団長(AFF日本委員会委員長)が平井さんでした。大会の公式行事が終わってホテルに戻った後、ファッション系の有力団体の事務方トップを中心とする参加者が平井さんの部屋に集まり、ウイスキーを飲みながら歓談するのが習いでした。世界やアジアの繊維ファッション産業の現状、日本が目指すべき方向、課題。時には、激論となったこともあります。

 議論が行き詰まったり、収拾がつかなかった時は、平井さんに見解を求めるのが常でした。当初は、緊張していた初めての参加者も“平井バー”の雰囲気がそうさせるのか、短時間で打ち解け、自然な形で常連になったものです。

  東レのみならず、繊維ファッション業界の発展に情熱を傾けた平井さん。その誠実で明朗な人柄に触れたいと願う人は平井バーの常連だけではありません。全国の繊維産地やファッション業界にも大勢います。

  グローバリゼーションによる厳しい競争によるのか、昨今は国際社会や産業界で「自社ファースト」を優先する風潮があるだけに、後進の方には平井さんの社会や業界の発展への目配り、気配り、心配りの精神を継承していただきたいと思います。

  継承では、平井さんにお願いがあります。時々、「平井バー」を開店してください。

                           (聖生清重)