FISPA便り「コシノヒロコさんの真の豊かさ」

  秋のファッションシーンは、長らく低迷している衣料品の売り上げが百貨店、専門店とも前年を上回る一方、「アマゾン・ファッション・ウィーク東京2018年春夏」も盛り上がるなど、久しぶりに明るい話題を提供しています。そんな中で、ファッション業界のみならず、一般の人々にも元気を与えるであろうニュースが飛び込んできました。ファッションデザイナーのコシノヒロコさんが、傘寿を記念して、これまでの活動を集大成した豪華本を上梓することになったのです。

  ヒロコさんのデザイナー歴は、実に60年。浮沈の激しいファッション業界にあって、東京、パリなどで毎年2回のコレクションを発表し続けることの大変さは容易に想像できます。一口に「継続は力」と言いますが、コレクションのたびに厳しい評価を受け、同時にビジネス的にも安定した売り上げを確保する。そんな容易ではない営みを半世紀以上も続ける。その重みは大変なものでしょう。

 上梓する本は、1978年から2017年までのコレクションルックと、長年描きためてきた絵画を一挙に掲載するものです。書名は「HIROKO KOSHINO~あるがまま なすがまま~」。丸善プラネットから12月1日発行(販売は丸善出版)で価格は22,000円。

 出版の資料によりますと、コシノヒロコが問い続けてきたのは「真の豊かさ」。ファッションやアートはもちろん、衣・食・住・遊・休・知・美の日本文化と重ねつつ、広く他国の文化も柔軟に受け入れ独自の文化を作り続けること。「空」「然」「素」「組」「耕」「遊」「色」の7章からなる同書は、真の豊かさとは何か、を示すことになるそうです。

 筆者は、随分前ですが、東京・原宿で開かれたヒロコさんの「書」の展覧会が強く記憶に残っています。その書は、たおやかで迷いがないものでした。近年は、芦屋と銀座のKHギャラリーを開き、多彩な分野で作品を発表しています。

 先月のアマゾン・ファッション・ウィーク東京2018では「リバース」をテーマにコレクションを発表しましたが、全体の印象は「若さ」。豪華本の上梓を機に「若さ」を原動力にして、さらに「真の豊かさ」を追求する活動を予感させるものでした。                     

(聖生清重)