FISPA便り「下請けが親を選別する生き残り術」
日本の繊維産地の実情に詳しい人にお聞きした「中小繊維製造業者の生き乗り策」で腑に落ちたことがあります。日本の繊維産地を形成する中小繊維製造業者を取り巻く環境は、国内市場に供給されるアパレル製品の輸入浸透率が97.0%を超えているグローバル時代にあって、なお、取引先からはコストダウンや下請け工賃の引き下げを求められるなど極めて厳しい状況にある、と言えるでしょう。
そうした厳しい状況の打開策としては、他国にはまねのできない新商品の開発、輸出市場の開拓、自社ブランドでの販売など、かねて指摘されている「自立」にあるのでしょうが、ことは「言うは易く行うは難し」であることも現実ではないでしょうか。
総論的には、その通りでしょうが、くだんの産地事情に詳しい方の観察によりますと、厳しい競争下で現在まで生き残り、存在感を発揮している中小繊維製造業者は、取引先を選別しているケースが少なくない、と言うのです。下請け・賃加工が多くを占める中小業者でも、赤字の仕事は拒否して、再生産可能な仕事だけを請けることで生き残り、なおかつ、将来的な見通りも暗くはない、と見ているそうです。
仕事を請ける側が仕事を選別する。取引先から「おたくが請けないのなら、(仕事を)他社に回すよ」と言われたらどうするのでしょう。「そんな低工賃の仕事はしない」、「そんな低価格では売りたくない」と思っても、現実的には請けざるを得ないのではないでしょうか。
その辺の事情はわかりませんが、現に、厳しい競争下でも生き抜いている中小製造業者は、自社の技術力、開発力、高品質製品の生産力、あるいは独自の販売力を発揮して「利益の出る仕事」を優先しているとのことです。
アパレル市場は、低価格でトレンドを盛り込んだ商品がシェアを高めています。いわゆる中間ゾーンは不振が続いています。しかし、市場が低価格商品一辺倒になることはないでしょう。多様性こそがファッションの持ち味だからです。高品位、高品質、かつファッショナブルでリーズナブルな価格の商品が無くなることはないでしょう。
そうしたゾーンで必要な役割を果たしている中小製造業者は、「原価低減優先」ではなく、「付加価値優先」のアパレル企業や小売りから機能を認められ、それによって売り先を選別できているのではないか。「腑に落ちた話」です。
(聖生清重)