FISPA便り「故・深澤さんのお別れ会で思ったこと」
年末は、行く年を振り返り、来る年を考える機会が多いと思いますが、喪中はがきが増えて、しんみりすることが増えた方も少なくないのではないでしょうか。かく言う筆者もその一人で、現役の記者の時、取材でお世話になった方々が相次いで鬼籍に入られ、寂しい思いをしています。
先日は、丸和繊維工業の創業者で元日本ニット工業組合連合理事長だった深澤和晃さんのお別れ会に参列してきました。豪快な印象の深澤さんですが、内実はやさしく、人情味にあふれた方でした。ある時、創業時の話をお聞きしたことがあります。「丸編み機2台で始めたんだよ」と話し、その後、設備を増やしながら会社を優良会社に育てたこと、そして「赤字の経験は一度もないよ」とさらりと話されたことを昨日のように思い出します。
お別れ会では、同業のニット業界の方々をはじめ、各界の多くの知人にお目にかかりました。そうした方々と話す中で深澤さんが生きた時代と新しい年の行く末に思いを馳せました。深澤さんは、まだ、高度成長の余韻が残っている時代に創業しましたが、おそらく後半は繊維産業が成長から成熟、衰退へと向かった時代でした。しかし、厳しい時代にあっても安定経営に努め、その精神はご子息の隆夫社長に受け継がれています。
そして、来るべき2018年です。繊維ファッション業界を見まわすと、今年の秋頃から、長年続いたアパレル製品中間ゾーンの消費がようやく上向いてきました。安倍政権の賃上げ要請もあって、賃金は上昇傾向にあります。一方、時代はデジタル、AI(人工知能)で変革の時です。繊維ファッション産業界でも、予想できない新事業が生まれ、旧来型の事業が攻められることも予想されます。
しかし、不変なこともあります。身にまとうことでワクワク・ドキドキするファッション製品は、感情を持った人間が生きる上で必要不可欠なものでしょう。だとすれば高品質で感性に優れた商品を適正価格で提供する産業が無くなることはないでしょう。
今年の11月から12月に開かれた、テキスタイルとニット製品の展示会は、大勢のバイヤーが詰めかけ活気に満ちていました。素材重視と「メード・イン・ジャパン」回帰の流れが感じられます。「頑張れ」と檄を飛ばす深澤さんの姿を脳裏に描きながら、深澤さんが精魂を傾けた日本繊維製造業の出番が増えるであろうことを予感しました。
(聖生清重)