FISPA便り「明るい雰囲気と黒船への対抗策」
年頭恒例の賀詞交換会は、その年の景気動向を正直に反映するようです。会場の雰囲気が全体として明るいか、どことなく停滞感が漂っているか、足下の景況感だけでなく、進路の景気天気図の予報が参加者の表情や醸し出す雰囲気から読み取れると思います。
去る10日に東京・紀尾井町のホテルで開かれた、恒例のオンワードホールディングスの賀詞交換会。今回で8回目ですが、今年は、久しぶりに明るい雰囲気でした。このところ、アパレル製品消費では、日本のアパレル企業にとって主戦場である中間ゾーンが不振で、会場に参集した取引先もその影響を受けていたのが実情でしたが、今年はそうではありませんでした。
オンワードホールディングスの廣内武代表取締役会長は、挨拶で大発会の株高などの情勢に触れた後、こう述べました。「昨年8月から衣料品のプロパー商品の売り上げが前年を上回るようになった。当社の大型NB(ナショナルブランド)も安定してきた。消費者は、リーマンショック後、節約志向で低価格なカジュアルな商品を求めてきたが、昨年後半以降は、少々、値が張っても気に入ったもの、他人から『いいわねぇ』と言われる商品、言い換えれば納得感のある商品を購入するようになった」。この挨拶を聞いて、うなずいた参加者が多かったように見受けられました。
だからといって廣内会長は環境の好転を手放しで喜んでいるだけではありません。続いて「周囲を見ると、IT(『情報技術)中心に黒船が襲いかかっている。これとの闘いがある」と気を引き締めました。巨大化するネット販売やAI(人工知能)を活用した新たな、しかも手強い競争相手に”宣戦布告”したと言えます。
オンワードホールディングスの経営方針に関して、廣内会長は「今は、グローバルなマスカスタマイゼーションの時代に入っている。この予見に基づいて当社は昨年、創業90周年記念として、祖業であるメンズスーツを短納期・リーズナブルプライスで提供するイージーオーダー「カシヤマ ザ・スマートテーラー」を発売した。これを大きな柱に育てる」と述べるとともに「メーカーとしての使命を果たすため単品に傾注する」と言明しました。
明るい雰囲気が印象的だった賀詞交換会でしたが、同時にデジタル革命で激変する時代での競争に勝つための具体策のひとつが示された会だったと思います。
(聖生清重)