FISPA便り「好きな花木で桜は8位」

 桜花の季節が、今年もやってまいりました。過ぎ去った冬がことのほか寒く、かつ長かっただけに、さらには大震災から1年が経過した春だからこそ、今年の桜花にはさまざまな思いを込めて、こころの底から愛でたいものです。 

 桜花は、入学式にもっとも似合う、と言えるのではないでしょうか。満開の桜花の下で、ランドセルを背負ったピッカピカの小学一年生が緊張気味に写っている写真。その子供は、幼き日の自分自身だったり、子育てに苦労した子供であったり、可愛い孫だったり、誰であっても、誰もが宝物のように大事にしているに違いありません。大学受験で「サクラチル」(不合格)の電報を受け取った経験のある方は、桜花に苦い思い出を重ねるかもしれませんが。 

 ともあれ、全国各地の開花情報がトップニュースになるほど、日本人が桜花を好むのはなぜでしょう。葉より先に薄いピンクの花が、一斉に開き、ゆっくり堪能する間もなく短期間で散ってしまう。華やかな満開の桜花とはかない花の命。その対照に日本人の精神に底流しているとの説もある無常観をそこはかとなく感じるからでしょうか。 

 「願わくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎのもちつきの頃」(山家集)。西行法師の有名な和歌です。本当のことは知りませんが、西行法師は、桜花の下で死ぬために絶食したそうです。 

 それほどまでに愛された桜花ですが、実は、万葉時代の日本人が最も好きな花木は桜ではなかったようです。「花と木の文化史」(中尾佐助・岩波新書)によりますと、万葉集で詠われた4,500首の歌に登場する花の種類は116で、第一位は身近にある萩(138回)、第二位は食べてよし、花を愛でてよしの梅(118回)で他を大きく引き離しています。桜は42回で8位です。最も、万葉の時代にソメイヨシノはありませんでしたから、ソメイヨシノが誕生した江戸時代以降なら、おそらく桜がトップになるのではないでしょうか。

 そんなことは、実はどうでもよいでしょう。なにはともあれ、満開の桜花の下で気のあった友と酒宴を楽しみたいものです。

(聖生清重)