FISPA便り「TSIHD社長解任劇の教訓」

アパレル業界に驚きと衝撃が走った去る2月23日の東京スタイルとサンエー・インターナショナルの共同持ち株会社、TSIホールディングス(HD)の中島芳樹社長解任劇は、東京スタイルの業績悪化が主因ですが、その背景には時代の変化とアパレル業界の構造変化があり、その変化への適応に苦しむ「旧大手アパレル」の苦悩があるのではないでしょうか。 

東京・岩本町の小さな婦人服メーカーだった東京スタイルを、日本を代表する大手アパレル企業へと成長させたのは故高野義雄社長で、そのビジネス手法は「製造卸売業」でした。高野社長は、典型的なワンマン経営者として知られますが、「商品本位主義」を掲げた経営手腕には優れ、全盛期には二ケタの売上高営業利益率を維持する好業績を誇りました。財務基盤も盤石で、その証拠にあの村上ファンドに狙われたことも記憶に新しいところです。 

その高野社長が亡くなった2009年、後を継いだのが中島社長ですが、時代はすでに「高野時代」に有効だった「製造卸売業」というビジネスモデルが通用しにくくなり、90年代ににわかに主流になったSPA(製造小売業)の優位性が明白になっていました。

中島社長は、「高野経営の継承」だけではジリ貧が避けられない、として手薄な「F1層」(20-34歳)向け新ブランドの導入やM&A(企業の合併・買収)を積極的に推進しました。しかし、12年2月期のTSIHD連結当期利益予想は70億円の赤字と厳しい結果になる見込みです。 

ダークスーツにネクタイの東京スタイルと茶髪にノーネクタイのサンエーに象徴されるように、社風の違いが大きいことも「経営統合の果実」を発現できないままの解任劇につながったと見られます。

ですが、根本的には東京スタイルを東京スタイルたらしめたビジネスモデルから新たなビジネスモデルへの脱皮という課題は残ります。黒字とはいえサンエーの収益率も低いのが実情です。ブランドプロデュース力に強みのあるサンエーと高品質な生産力に強みのある東京スタイルの融合という経営統合の当初の目的を早期に実現することが「解任劇第二幕」の主要課題ですが、実は、この課題は同業他社の課題でもあるでしょう。とりわけ、「製造卸売業」からの脱皮という課題は。

(聖生清重)