FISPA便り「ゾウの時間ネズミの時間」

 新聞記者を志して、それなりに勉強していた頃、「なるほど」と思わされた一般紙記者のノウハウを知りました。デスクから「何かないか」、ようするに読者を引き付ける記事を書け、と命じられたものの、これといったネタがなくて困っているとします。そんな時は、動物園に電話するに限る。希少動物が赤ちゃんを産んだとか、変わった行動をする動物がいるとか、動物を介して、それなりに話題になる記事を書くことができる、というものです。

 そんな動物に関して、実に面白い本があります。「ゾウの時間ネズミの時間」(中公新書)です。「サイズからの発想によって動物のデザインを発見し、その動物によって立つ論理を人間に理解可能なものにする新しい生物学入門書」 との触れ込みは、その期待を裏切りません。

 たとえば、第2章「サイズと進化」にこんな研究成果が紹介されています。「島の規則」と題した古生物学に関する法則で「島に隔離されたゾウは、世代を重ねるうちに、どんどん小型化していった。ネズミやウサギのようなサイズの小さいものは、逆に大きくなっていく」のだそうです。
何故、そうなるのか。同書は「島という環境は、捕食者の少ない環境である。一匹の肉食獣を養っていくには、その餌として100匹近くの草食獣がいなければならない。ところが、島は狭いから草の量がたとえば10匹の草食獣しか養えないとすると、肉食獣の方は餌不足で生きていけないが、草食獣の方は生きていけるという状況が出現する。こういう環境下で、ゾウは小さくなり、ネズミは大きくなる」と説明しています。

 筆者の本川達雄氏は、大学内には偉人がそびえたっているのに、スーパーのレジなどの対応はあきれるほどのろいし不適切な米国社会とそうではない日本社会を比較してこんな感想を持ったそうです。「島国という環境では、エリートのサイズは小さくなり、ずばぬけた巨人と呼べる人物は出てきにくい。逆に小さい方、つまり庶民のスケールは大きくなり、知的レベルはきわめて高い」。

 なるほど、と思わされますが、さらに本川氏は「いまや地球はだんだん狭くなり、一つの島と考えねばならない『「島の時代』になる」と書いています。会社経営の世界では、よく「その会社のサイズ(規模)は、社長のサイズより大きくならない」と言われますが、それはともかく、島である国内にとどまらず「地球という島」で生きてゆく方策を考えなければならない時代であることは確かなのでしょうね。                   
 

(聖生清重)