FISPA便り「タオル、国産回帰への期待」
全国の繊維産地の生産規模が総じて縮小傾向を脱していない中で、タオル産地が国内生産回帰への動きを見せており、今後の推移が大いに注目されます。
タオルの二大産地である今治産地と泉州産地。今治糸友会による今治産地の昨年1-12月の綿糸受け渡し数量は5万5,689トンで前年比1.0%増加しました。これで、2年連続して前年を上回ったことになります。一方、大阪タオル工業組合がまとめた泉州産地の昨年1-12月の生産量(加工仕上がり重量)は、前年比1.2%増と微増とはいえ実に21年ぶりに前年を上回りました。
タオル産地の生産が前年を上回った背景には、「イベント関連や企業ノベルティ需要が回復した」(今治)ことや「東日本大震災で大量のタオルが被災地に送られた」(泉州)ことがありますが、根本的には中国での人件費や加工料の高騰に伴い国内生産に回帰する動きがあると見られます。
1990年代に中国が本格的に社会主義市場経済路線を爆進するようになるにつれ、世界の繊維産業では中国の一人勝ちが鮮明になりました。こうした中で日本の有力繊維企業は中国などに生産拠点を確保するグローバル戦略を推進していますが、その分国内生産は縮小してきました。繊維産業を構成する大多数の中小製造業者は、大量のアパレル製品輸入による打撃を受けながらも「自立」への努力を必死に続けてきました。「下請け・賃加工」を脱し、「自ら企画・生産・販売」する形態に転換することで厳しいグローバル競争に生き残り、勝ち残るためです。
中小製造業者の自立事業では、経済産業省が03年度から5年間、150億円を投じて「自立」を支援しました。その成果についてはさまざまな見方がありますが、中小製造業者に「自立」の意欲をもたらせたことは確かです。
タオル生産の国産回帰。主因は中国でのコスト上昇だと思われますが、同時にかねて挑戦してきた「自立」の成果がジワジワ出てきたと言えるとしたら、先行きが大いに楽しみです。
(聖生清重)