FISPA便り「忘年会と送年会」

このコラムを読んで下さる方のほとんどは、今年も何らかの「忘年会」を何回か開いたのではないでしょうか。いや「忘年会」がゼロの方は、仮にご本人が正真正銘の下戸でも皆無なのではないでしょうか。 

会社の同僚や職場の同僚、あるいは学生時代の友人、趣味の仲間、家族などなど、メンバーは異なっても「忘年会」は、リラックスできる代表的な宴会です。なにせ、今年、起こったことは、嫌なこともすべて忘れるために開かれるのですから。 

最も、今年は、あの東日本大震災の災禍に見舞われた、忘れることのできない年でした。肉親を失い、家を流され、失意のままで年の瀬を迎えざるをえない大勢の被災者のこと思うと、今年の「忘年会」はいつもと違ってどこかにひっかかるものがあって、こころの底からリラックスできなかった方も多いことでしょう。忘れるどころではなく、未来へと伝えるべき記憶、記録も大事ですし…。 

その忘年会ですが、お隣の韓国では「忘年会」と言わずに「送年会」と呼ぶのだそうです。ある商社マンに聞いたのですが、例えば、怨みを抱いたことがあったとすると、日本では「忘れるための宴会」なのに対し、韓国は「怨みを来年に送るための宴会」なのです。だから「忘」ではなく「送」だと。 

繊維ファッション業界にとっての「忘」と「送」はどうでしょう。衣料消費は、大震災直後の3カ月は大幅に落ち込みましたが、その後は盛り返し、力強さには欠けるものの「可もなく不可もなく」の状況で推移しました。大型倒産もなく、その意味では平穏な年だったと言えそうです。

しかし、国内の生産規模は、今年も縮小傾向に終止符を打ったとは言えそうにありません。多数を占める繊維産地の生産規模、出荷額、事業者数、従業員数などはおそらく今年も減少したと思われます。個別企業にとっても、産業ぐるみでも課題の「アジア需要の取り込み」でも明確な進展があったとは言えません。繊維ファション業界には、「忘」より「送」が似合いそうです。「来年こそは」の期待を込めて、今年最後の「FISPA便り」を送ります。

(聖生清重)