FISPA便り「日本TX5つの強み」

日本テキスタイルの世界における位置を表現する際、常套句のように「世界に冠する」と形容されます。四季の変化から生まれる日本人の繊細な感性、次々と生み出される科学技術の精華である新しい原糸、江戸時代から連綿として続く職人の匠の技、それらが一体となって日本テキスタイルがつくられているからです。 

にもかかわらず、日本テキスタイルが世界市場で「世界に冠する」地位を獲得しているかと言えば、そうは言えないのが現実です。ダウンジャケットの表地に使われる高密度の合繊テキスタイルや繊細な表情と高品質を備えたカットソー・カットソー製品、特殊な意匠糸使いのニット、世界一薄いテキスタイルといった日本ならではの商品の輸出は、異常な円高下でも健闘していますが、全体で見るとコスト高の壁を越えることができずに苦しんでいるのが実情です。 

しかも、ある大手テキスタイルメーカートップは「我々は、口を開けば『世界に冠する』と言うが本当にそうなのか、再吟味する必要がある」と、使い勝手の良い「世界に冠する」の表現に疑問を呈しています。 

実際、どうなのでしょう。今や、日本を代表するテキスタイルデザイナーと言える梶原加奈子さんが去る10月にIFI(ファッション産業人材育成機構)の繊維ファッションビジネス研究会で行った講演を聞いて、「世界に冠する」は生きていることがわかりました。 

梶原さんによると、日本テキスタイルの強みは次の5点です。①高品質を維持する技術力②多重織りなどユニークな視点での開発力③四季豊かな自然で育った感性④便利性を追求する探究心(ガムテープをカットするための歯は日本人ならでは)⑤忍耐力からくる美意識(思いやりや感謝のこころ)。要約すれば「独自のデザインを生み出すことができる歴史と環境」ということだそうです。

梶原さんと複数の産地メーカーの技術者とのコラボから生まれた日本テキスタイル。パリのラグジュアリーブランドに自ら売り込んで、実際、成約にこぎつけています。この事実は、日本テキスタイルの未来にとっての希望だと思います。

(聖生清重)